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専門家インタビュー

田中 俊一 氏

福島県での放射能除染

元原子力委員会委員長代理

田中 俊一氏(たなか・しゅんいち)

1945年 福島県生まれ。67年日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)入所。原子炉工学部遮蔽研究室長、東海研究所副所長、所長、副理事長などを歴任後、2007年〜 09年原子力委員会委員長代理。現在は、NPO法人放射線安全フォーラム副理事長として、福島県の除染活動に取り組んでいる。

── 先生は早い時期から福島で除染活動に取り組まれていますが、これまでの取り組みを教えてください。

田中 今回の事故で環境に出された放射能の量から考えて、国として住民の居住空間の環境の除染は、非常に大きな大事な仕事だ、という思いがあり、4月半ばくらいから現地に入って何とか除染の試みを始めました。

 実際には、5月19日に飯館村の長泥地区で一番汚染のひどい地域の民家の除染を行いました。

 その後、伊達市と縁があり、7月に富成小学校の除染を行いました。グラウンドだけではなくて学校全体、周囲の線量を全部下げるというようなトータルの除染です。

 そして、引き続いて、伊達市で特定避難勧奨地点として指定されたところが出ました。霊山町の下小国地区というところですが、そこで3軒の民家の除染を行いました。

 その後、9月下旬から10月にかけて山林や、桃畑、果樹園の除染も大事だということで、若干試験も兼ねたような除染を行いました。10月末からは、先ほどの下小国地区の特定避難勧奨地点、400戸くらいの除染を順次行っています。

 これまで二十数軒の除染が済んでいますが、2週間ほど前の日曜日、細野環境大臣が環境省の幹部共々除染作業に加わっていただき、国を挙げて除染活動がだんだん本格化しつつあるかな、という印象をもっています。

 

富成小学校の除染
富成小学校の除染

富成小学校プールの除染
富成小学校プールの除染

農家等の除染
農家等の除染

下小国地区除染試験の結果
下小国地区除染試験の結果

 

── 除染を実施されて、どのような効果があったでしょうか。

田中 場所によって効果の現れ方は違います。例えば学校の場合は、外側は全体的にどこの場所を測っても1時間当たり1マイクロシーベルト以下くらいまで除染し、校舎の中は0.2〜0.4マイクロシーベルトくらいまで下がりました。評価の仕方はいろいろありますが、実際には除染でかなり線量は下がったと思います。もともと3マイクロシーベルトくらいあったところが、それくらいに下がったわけですから。

 それから下小国地区の特定避難勧奨地点は、庭先で1時間当たり3マイクロシーベルト以上のところが指定されています。その地点でも家の周り全体を除染して、1〜1.2マイクロシーベルトくらいまで下がっています。

 しかし、「それでは不十分ではないか」という意見もあるわけですね。「年間1ミリシーベルトにしなくては不満だ」という声がよく聞かれます。環境省が出した除染の基本方針でも、長期的な目標は、1ミリシーベルトを目指す、ということになっています。

 実際に私たちが除染をしてみますと、国の計算の方式で年間1ミリシーベルトまで下げるということになると、1時間当たりの空間線量が0.22とか、0.23マイクロシーベルトなんですね。ですから、今、私がやっている除染の4分の1とか、5分の1の数値ですね。そこまで下げるというのは、現実には今の段階では不可能だと思います。

 空間線量で今、私が目標にしている1時間あたり1マイクロシーベルト前後というのは、実際の個人被ばくを測ってみると、おそらく多く見ても年間5ミリシーベルトを超えない、そんなレベルになります。

 5ミリシーベルトというのは、いくつかの理由があるんですが、1つは、成人の避難の基準が年間20ミリシーベルトですね。年齢制限はありませんが、国の基準が年間20ミリシーベルトです。それに対して、幼児などのリスクを考えて、「その3分の1くらいを目指しましょう」というのが私の除染の1つの目標です。

 それから、管理区域の基準、管理目標が年間5.2ミリシーベルトですから、一般住民が住んでいるところはそれよりは下にしたほうがいいのではないか、ということ。現実に除染をしてみると、それくらいが現在下げられる限度であるということ。また、セシウム134が少しずつ減ってくるので、数年経てば半分くらいの線量まではいくだろうと思います。

 そういうことを考えると、年間5ミリシーベルトくらいでいいのではないか、というのが私の考えです。伊達市では大体そういう考えのもとで除染を行っています。

 

── 除染を行うにあたって、注意すべきことは何でしょうか。

田中 除染の目的は、環境を汚している放射能をできるだけ効果的に取り除くことによって被ばく線量を下げることです。

 ただし、福島第一原子力発電所の事故からもう9か月経ちまして、放射能の汚染状況は非常に偏在化してきています。全体に汚染されてはいますが、雨の通る道や、水道みたいなところ、苔や草には比較的たくさんの放射能、セシウムがたまっていますので、そういったところをきちんと測定しながら効果的に除去することが最も大事ですね。

 そのためには、専門家の協力を得て、きちんと測定をしながら不必要に土を削ってしまうとか、そういうことのないようにすることが大事です。例えば、1センチ削ればいい土を5センチ削ってしまえば、廃棄物は5倍になります。除染廃棄物の処分が非常に大きな問題ですから、廃棄物はできるだけ少なくしつつ効果的に除染する、ということが非常に大事な心構えだと思います。

 一番問題なのは、除染した廃棄物をどこに置くか、ということです。現在は、除染したものをある程度まとめて現場に保管している状況です。その次の段階では仮置場にまとめて置く。環境省の基準では、仮置場に3年程度置いて、その後、中間貯蔵施設に移すということですが、これは30年間ということになっています。

 実際には、伊達市の場合、仮置場はかなり具体化しつつあるのですが、中間貯蔵施設になると、まだ全く見通しが立っていません。廃棄物の置場がなければ除染はできませんので、そういうことは国や県、自治体だけではなくて、やはり一人ひとりの問題として考えていかなければいけない問題だ、と私はいつも申し上げています。

 それから、作業に伴う基本的な安全を守る。そこは今、そんなに心配することはないと思いますが、被ばく線量の管理や、ほこりを吸わないなど内部被ばくに注意すべきだと思います。

 

除染廃棄物の想定貯蔵期間
除染廃棄物の想定貯蔵期間

 

── 福島県民が今、求めることはどのようなことでしょうか。

田中 福島県の住民の立場でそのまま言えば、「元に戻してください」ということですが、避難している方たちにとってはやはり故郷、自分の住んでいたところにいつ戻れるんだろうか、本当に戻れる日がくるんだろうか、ということが一番の大きな問題ですね。

 それから今、住んでいる方たちもいますが、そこもある程度被ばく線量が高いですから、そういう方たちは、やはり低線量の被ばくについての健康リスク、健康への影響を非常に心配しています。特にお母さんたちが子供に対する影響を非常に心配しているわけですね。これらが一番の問題かなと思います。

 そのほか、農業が非常に盛んなところですので、農産物への被害、風評被害も非常に大きくて、全体としていろいろなストレスがあります。そのストレスをどうやって解消していくか、ということになるかと思います。

 その第一歩が除染です。まず除染が進まないことには具体的に放射線や、放射能に対する不安とか、ストレスはなくなりませんし、実際に避難している人たちが帰れるという見通しも立ちません。

 住んでいる方たちもそのことは非常によく分かっているんですが、かなり長期間になってきてしまったので、いろいろな見通しが立たない状況です。社会不安も出てきていることも事実ですから、できるだけ早く除染を進めて、少しでも気持ちを前向きにしてもらう、ということが大事だと思います。

 特に警戒区域や、計画的避難区域では、産業や雇用、仕事がないということもまた大きなストレスなんです。「補償金をもらっているからいいじゃないか」ということにはならず、仕事をする場がないというのがある意味では一番大きなストレスになっていて、それを何とか解消しなければいけないと思います。

 私は、除染で自分たちの住んでいた町や村をきれいにするという目標もありますから、ぜひ除染活動に関って、当面の雇用の機会というか、仕事としてとらえていっていただくようにお願いしているところです。

 

 (2011年11月25日)