原子力文化2016年11月号 インタビュー(抜粋)

「読む」ことから全てが始まった
― ツイッターが教えてくれたこと ―

震災直後からツイッターで福島第一原子力発電所事故情報や放射線影響について情報発信を続けてきた早野龍五さん。その冷静なツイートは、若者を中心に15万人のフォロワーに支持されるまでに至りました。
その後ツイッターからのつながりをきっかけに、早野さんは福島での給食陰膳調査やベビースキャンの開発、福島の高校生との共同研究など、さまざまな活動をなさっています。これまでの活動についてお伺いしました。

東京大学大学院理学系研究科教授
早野 龍五  氏 (はやの・りゅうご)

1952年 岐阜県生まれ。原子物理学者。専門はエキゾチック原子研究。東京大学理学部物理学科、同大学大学院理学系研究科を経て、高エネルギー物理学研究所助教授、東京大学理学部物理助教授などを経て現職。世界最大の加速器を擁するスイスのCERN(欧州合同原子核研究機関)を拠点に研究活動を行なう一方、3.11以降は福島第一原発事故に関して、Twitterから現状分析と情報発信を行なうなどして福島に関与している。糸井重里との共著『知ろうとすること。』などの著書がある。

―― 先生のツイッターですが、一番多いときで15万人くらいの方がフォローされていますね。そもそも、震災前からツイッターで情報を発信していらしたのですか。

2011年の3月にフォロワー数が15万人を超えました。
もともと新しもの好きなので、新しいツールはたくさん使っています。「ポケモンGO」もやっていますよ。ツイッターは日本に上陸した直後くらいから使っていました。
僕たち「大学の先生」という仕事は、教室で授業をしている姿は学生も見るのですが、大学にいないときも多くて、学生からは普段何をやっているかよくわからない得体の知れない存在に見えるらしいんです。世の中からもそうかもしれない。そういう人は普段どういう生活をしているのか、を少し見てもらうのも悪くないかなと思って、自分の日常的な生活を中心に、身の回りの科学のことなどを書き始めて、震災前にはフォロワー数は3000人くらいでした。アカデミックなアカウントで3000人というのは相当多い方だと思いますが、それが震災直前の状況でした。

―― 情報提供の手段として、ツイッター以外にもウェブサイトやフェイスブックなどいろいろな手段はありますが、なぜツイッターを選ばれたのですか。

震災前からツイッターをやっていたからということがあります。フェイスブックもやっているのですが、「お友達申請」が非常に煩わしい。ツイッターは申請しなくても読みたい人が読めばいいことが拡散力につながっていますし、書き込みに対する反応も早いので双方向性が高い。140字という文字数の制限はありますが、日本語の140字は、英語の140字より情報量が多いのです。
僕の場合は、最初の頃から図やグラフ、それから、「ここに元の情報があります」というリンクなどを入れてツイートしていました。リンクなども含めてワンツイート140字完結で情報が出せるというところが面白く、使い勝手が良かったのです。
もちろん、震災直後や熊本地震のような時にはデマも拡散してしまいますが、情報発信のツールとしては面白いツールだと思います。

―― 早野先生がツイートされたことに対して炎上(非難が殺到する)したことはありましたか。

それはありますよ。今でもいろいろと言ってくる人はいますが、大体は無視していました。いちいち反応はしませんでしたね。

情報を発信するより「読む」ことのほうが大事だと申し上げている

―― ツイッターのフォロワーの反応で、読み取れることもありますか。

ソーシャルメディアを情報発信に使いたいと思っていらっしゃる方などから「どうしたらいいですか」と聞かれることがありますが、僕は情報を発信するより「読む」ことのほうが大事だと申し上げています。僕も、たくさんの情報を発信しましたが、おそらくその何倍もの量の情報を、ツイッターから読んでいたと思います。
世の中にどういうデマがあるか、人々が何を理解していないか、どういう面々が意図的に誤った方向に誘導しようとしているのか、どういう人たちがそれによって影響を受けているか。それから福島に住んでいらっしゃる方々は、今、何を思っているか、注意深く読むとそういうことがよくわかります。今でも毎日かなりの時間、情報を「読む」ことに割いています。

(一部 抜粋)




2016年11月号 目次

風のように鳥のように(第83回)
思いきって、かけてみれば/岸本葉子(エッセイスト)

インタビュー
「読む」ことから全てが始まった/早野龍五(東京大学大学院理学系研究科教授)

追跡原子力
・なぜ「シン・ゴジラ」に惹きつけられるのか
・もんじゅ議論にみる日本の核燃料サイクルの行方

中東万華鏡(第8回)
ツタンカーメンのエンドウ豆/保坂修司(一般財団法人日本エネルギー経済研究所 研究理事・中東研究センター 副センター長)

おもろいでっせ!モノづくり(第47回)
心豊かに仕事しとりますか?/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)

客観的に冷静に(第48回)
寺田寅彦随想 その19/有馬朗人(武蔵学園長)

笑いは万薬の長(第28回)
いちえふ廃炉/宇野賀津子(公益財団法人ルイ・パストゥール医学研究センターインターフェロン・生体防御研究室長)

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