医療で活躍する放射線

健康診断で受ける胸や胃のレントゲン撮影や、病院でのCTスキャン検査では、放射線の透過性を利用して体内を調べています。PET検査のように特定の臓器や組織に集まりやすい放射性医薬品を使い、そこから出る放射線をとらえて映像化し、体内の様子を調べる検査も行われています。
また、今日の日本での死因の第一位となっているがんの治療において、放射線の細胞致死作用を用いたがん治療が行われています。放射線治療は外科手術、化学療法(抗がん剤治療)と並んで重要な役割を担っています。
さらに、注射器や手術用のメスなど医療器具の滅菌にも放射線が利用されています。ここでは多く利用されているレントゲン撮影、CTスキャンと放射線治療、医療器具の滅菌などについて紹介します。

レントゲン撮影

放射線の透過性を利用して撮影されます。エックス線やガンマ線などの放射線の透過性は、透過する物質の密度に応じて減弱します。そのため、人体の中でも比較的密度の高い骨では放射線が減弱し、筋肉や臓器などは透過量が多くなります。この透過量の差を生かして体内の様子を撮影します。

レントゲン撮影イメージ

CTスキャン

レントゲン撮影では平面の撮影を行いますが、CTスキャンでは放射線を発生する部分と検出する部分を回転させ、放射線の透過度からコンピュータ計算によって体のスライス像を再構成します。さらに、このスライスを組み合わせることにより、立体的な画像を再構成します。これによって、体の内部構造を詳細に知ることができます。

CTスキャンイメージ

放射線治療

放射線の細胞致死作用を利用したがんの治療です。手術や化学療法と比較して、体への負担が少なく、組織や臓器の機能や形態を温存できる特徴があります(例として、乳がんの場合の乳房など)。外部からの照射や、放射線を出す物質が入ったカプセルを体内に入れる照射方法など、さまざまな治療法があります。

外部からの照射

かつての放射線治療では、がんに対して、一方向あるいは二方向からの照射を行っていました。近年では、コンピューター制御によって放射線源を動かしていろいろな方向から照射するとともに、遮へい材を自在に動かして強弱をつけることで、複雑ながん病巣の形に合わせて放射線を集中させ、正常組織へのダメージを最小化した治療(強度変調放射線治療)が行われています。

外部からの照射イメージ

密封小線源放射線治療

放射線源を密封した小さなカプセルをがん組織に埋め込むなどして、ピンポイントで放射線を照射することで、がんを治療する方法です。

密封小線源放射線治療イメージ

出典:九州大学大学院医学研究院臨床放射線科学分野HPより

ホウ素中性子捕捉療法

中性子とホウ素の高い反応性を利用して、がん細胞に選択的に放射線作用を与えることができる治療法です。がん細胞が取り込みやすいように加工したホウ素化合物(ホウ素薬剤)を投与したうえで中性子(熱中性子)をあてると、核反応を起こして飛距離の非常に短い放射線(アルファ線とリチウム原子核)が発生します。この放射線がホウ素薬剤を取り込んだ細胞に大きな作用を与えます。

ホウ素中性子捕捉療法イメージ

出典:大阪医科薬科大学関西BNCT共同医療センターHPより

RI内用療法

放射性同位元素(RI)を結合した薬剤を経口投与もしくは注射して目的の臓器に薬剤を集積させ、がん細胞に放射線をあてる治療方法です。

医療器具の滅菌

放射線照射による滅菌は、熱や化学物質による滅菌と比較して、以下のメリット・デメリットがあります。

メリット

  • ・ 密封された状態で滅菌処理ができる
  • ・ 温度変化がほとんどないため、形態の変容がない
  • ・ 有害物質の残留などがない

デメリット

  • ・ プラスチック樹脂製品によっては、黄色に変色したり、強度の低下などが発生する場合がある。
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