原子力に対する世論は、事故や災害などの出来事があるごとに大きく変動する傾向にある。そのため、本調査では、全国規模の世論調査を経年的、定点的に実施し、原子力に関する世論の動向や情報の受け手の意識を正確に把握することを目的として実施している。
本調査は、2006年度から継続的に実施し、2015年度調査は9回目の実施となる。
原子力に対するイメージ
問1 あなたは「原子力」という言葉を聞いたときに、どのようなイメージを思い浮かべますか。
次の中からあてはまるものをすべてお選びください。(○はいくつでも)


- 「原子力」という言葉から思い浮かぶイメージを尋ねたところ、全体として肯定的なイメージより否定的なイメージの反応が高く、「危険」(68.3%)、「不安」(58.4%)、「複雑」(37.3%)に回答が集中。一方、肯定的なイメージは、「必要」(23.2%)、「役に立つ」(22.8%)、「気になる」(21.7%)という回答が多く、他の項目はきわめて低い反応水準にある。
肯定的/否定的イメージとも上位3項目は前回と同様。「危険」「不安」という認識は増加傾向。同様に「信頼できない」という認識も増加傾向である。一方、「必要」「役に立つ」という認識は福島事故後から減少傾向が底を打ち、昨年に引き続き回復傾向にある。


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原子力のイメージは、否定的なイメージが高く、必要/不必要は意見が割れている
「原子力」という言葉から思い浮かぶイメージを質問したところ、回答の上位4項目は「危険」(68.3%)、「不安」(58.4%)、「複雑」(37.3%)という否定的なイメージの項目であった。次いで、「必要」(23.2%)、「役に立つ」(22.8%)という肯定的なイメージの項目が続く結果となった。他の項目はきわめて低い反応水準であった。
表1「肯定的なイメージ」と「否定的なイメージ」を比較。ほとんどの項目でどちらか一方の選択肢に回答が集まる傾向がある。
原子力は、否定的なイメージに傾いていることが分かる。
一方で、「役に立つ」という肯定的なイメージもある。「必要」-「不必要」は、どちらか一方の選択肢に回答が集まる傾向がないことから、「必要」-「不必要」の意見が分かれていることがわかる。

図1、表2「経年変化」の観察。
否定的なイメージの上位4項目「危険」、「不安」、「複雑」、「信頼できない」は、前回同様の順位であるが、いずれの項目もポイントが増加し、否定的なイメージの認識は増加傾向となった。川内原子力発電所が再稼働し、ニュース等で再稼働に関する情報を受けたことにより、福島第一原子力発電所の事故が思い起こされ、否定的なイメージが増加した可能性がある。
一方、肯定的なイメージの上位2項目「必要」、「役に立つ」は、福島第一原子力発電所の事故後、減少傾向が底を打ち、増加傾向にあるように見える。増加傾向かどうかは、次年度以降の変化を確認することが望まれる。
2011年の福島第一原子力発電所事故の前後では、「信頼できない+14.1」、「必要-11.9」 で大きな変動が見られる。
「信頼できない」は、事故後、最もポイントが高まった項目となった。事故によって原子力に対する信頼が大きく損なわれたことが確認できる。さらに、その後も徐々にポイントが増加している傾向が見られる。「必要」は、事故後、肯定的なイメージの中では、最もポイントが変動した項目となった。事故によって原子力の必要性に疑問を抱いたことが分かる。さらに、その後も減少傾向が続き、2013年調査のポイント(14.8%)は、「不必要(12.3%)」と同程度の水準まで落ち込む結果となったが、徐々に増加傾向に転じているように見える。2014年4月に「エネルギー基本計画」が閣議決定され、必要性の認識が増したことが影響している可能性がある。
逆に、「危険」は事故前後で差が見られない項目である。事故前より原子力は「危険」と認識されており、事故後もその認識はあまり変化していないことが分かる。

放射線に対するイメージ
問2 あなたは「放射線」という言葉を聞いたときに、どのようなイメージを思い浮かべますか。
次の中からあてはまるものをすべてお選びください。(○はいくつでも)


- 「放射線」という言葉から思い浮かぶイメージを尋ねたところ、全体として肯定的なイメージよりも否定的なイメージの反応が圧倒的に高く、「危険」(72.9%)、「不安」(55.8%)という回答が突出している。一方、肯定的なイメージでは「役に立つ」(21.0%)、「気になる」(17.5%)という回答が高いが、否定的イメージと比べるとポイント数が圧倒的に低い。
否定的イメージは高いポイントで安定している。一方、「役に立つ」イメージは増加している。

原子力・放射線・エネルギー分野への関心
問3 原子力やエネルギーの分野において、あなたが関心のあることはどれですか。
次の中からあてはまるものをすべてお選びください。(○はいくつでも)


- 原子力やエネルギーの分野について関心のあることを尋ねた。突出して関心が高い項目は「地球温暖化」(54.5%)である。次いで、「放射線による人体の影響」(37.6%)、「原子力施設のリスク」(37.2%)、「放射性廃棄物の処分」(36.4%)、「日本のエネルギー事情」(36.3%)、「太陽光発電の開発状況」(32.6%)。
前回に比べて、「地球温暖化」の関心が増加した。それに次ぐ5項目は高いポイントで安定している。その中でも、原子力に関わる項目の関心は増加して見える。


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COP→温暖化、再稼働→安全性やリスク等の関心が高まった 若年層は関心が低め
原子力やエネルギーの分野について関心については、突出して「地球温暖化」(54.5%)の関心が高い。次いで、「放射線による人体の影響」(37.6%)、「原子力施設のリスク」(37.2%)、「放射性廃棄物の処分」(36.4%)、「日本のエネルギー事情」(36.3%)、「太陽光発電の開発状況」(32.6%)と続く結果となった。

性別・年齢別の傾向を観察すると、男性は、「地球温暖化」、「日本のエネルギー事情」の関心が高く、女性は、「地球温暖化」、「放射線による人体の影響」の関心が高い。10~40歳代は、他の年代と比べて関心が低い傾向があるが、特に、女性10~30歳代は「特にない/わからない」が上位に入っているように関心が低いことが分かる。
図2で経年変化を観察すると、「地球温暖化」とが前回に比べてポイントが増加しているが、フランスのパリで開催された「COP21」に関連するニュースを受け、関心が高まったことが推測される。また、「原子力発電の安全性」、「原子力施設のリスク」、「放射線による人体の影響」のポイントも増加しているが、川内原子力発電所の再稼働が影響している可能性が高い。
2011年の福島第一原子力発電所事故前後では、「放射性廃棄物の処分+9.5」、「放射線による人体の影響+8.5」、「地球温暖化-7.0」で大きな変動が見られる。
「放射性廃棄物の処分」は、事故後、最も関心が高まった項目となった。事故により原子力発電に注目が集まり、まだ確定していない高レベル放射性廃棄物の処分地に対する関心が高まったと推測される。

原子力・エネルギー分野に関する知識
問4 原子力やエネルギーに関する次の事柄について、あなたはどの程度ご存知ですか。
それぞれについてお答えください。(○はそれぞれ1つずつ)


- 原子力やエネルギー分野で認知率が高い項目は、「二酸化炭素は地球温暖化の原因となる温室効果ガスの一つである」(よく知っている・ある程度知っている 60.0%)、「電力を安定的に供給するため、さまざまな発電方法を組み合わせて発電されている」(よく知っている・ある程度知っている 53.3%)。その他、放射線利用、自然放射線が知られている。
一方で、認知率の低い項目として、「軽水炉の燃料は核分裂しやすいウランの割合が3~5%であるのに対し、原子爆弾はほぼ100%である」(知らない 78.6%)が突出している。その他、日本のエネルギー自給率、フランスの原子力事情、プルサーマル、放射線の確定影響と確率影響の違いが知られていない。全体の傾向は前回と変わらない。

エネルギーに対する態度
問5 今後日本は、どのようなエネルギーを利用・活用していけばよいと思いますか。
以下にあげているエネルギーの中から、お選びください。(○はいくつでも)


- 今後、わが国が利用・活用していくべきと思うエネルギーを尋ねたところ、「太陽光発電」(82.8%)、「風力発電」(63.9%)、「水力発電」(56.8%)、「地熱発電」(47.2%)と続く。前回までの結果と同様の傾向を示しているが、ポイントが高い。
一方、石炭火力、石油火力は経年的にも低いポイントである。原子力発電も福島事故後から低いポイントであり、この傾向は維持されている。

原子力利用に対する態度
問6-1 今後日本は、原子力発電をどのように利用していけばよいと思いますか。
あなたの考えに近いものをお選びください。(○は1つだけ)


- 原子力の利用に関して、もっとも大きい意見は「原子力発電をしばらく利用するが、徐々に廃止していくべきだ」(47.9%)。次いで、「原子力発電は即時、廃止すべきだ」(14.8%)。一方、原子力発電維持の意見は1割強程度である。また、「わからない」の回答が22.9%ある。

原子力発電の再稼働に対する考え
問6-2 九州電力(株)川内原子力発電所1号機は、原子力規制委員会の新規制基準への適合確認を経て、2015年8月11日に再稼働しました。以下のような再稼働に関するご意見について、あなたのお考えにあてはまるものがありましたら、すべてお選びください。(○はいくつでも)


- 再稼動に関する意見として多く見られるのは、「原子力発電の再稼動について、国民の理解は得られていないと思う」(38.5%)、「安全対策を行い、厳しい審査を経て、再稼動したのであれば、認めてもよいと思う」(32.3%)、「政府はもっと前面に出て、安全に対する責任を取る態度を示すべきだと思う」(29.7%)。
一方、少ない意見は、「電力会社の安全性確保への取り組みを信じている」「電源三法交付金のより良い使い方をしっかりと考えてほしい」。

原子力、放射線等のベネフィット/リスク認知
問7 あなたは、次のそれぞれの事柄について、どう思いますか。あなたの考えに近いものをお選びください。(○はそれぞれ1つずつ)


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原子力発電のリスク認知(放射性廃棄物処分)
問8 現在、高レベル放射性廃棄物の処分※3について検討が行なわれています。あなたは、そのことについてどのように感じますか。(○は1つだけ)


- 放射性廃棄物処分の検討について、安心(「安心」+「どちらかといえば安心」)という回答は6.1%であるのに対し、不安(「不安」+「どちらかといえば不安」)という回答は66.1%と、不安層が圧倒的に多い。福島事故以降、不安感が徐々に増加しているように見える。

原子力の専門家に対する信頼
問9-1 原子力に関して、あなたは「原子力の専門家※4」を信頼できると思いますか。(○は1つだけ)


- 原子力の専門家についての信頼を聞いたところ、信頼できる(「信頼できる」+「どちらかといえば信頼できる」)という回答は18.0%、信頼できない(「信頼できない」+「どちらかといえば信頼できない」)という回答は31.7%。「どちらともいえない」という回答が50.0%を占めている。原子力事業者、国(前回)や自治体(今回)に比べると、信頼感は高め。年代別にみると、10~60代で、年齢と共に、否定的意見が若干増加する。

原子力の専門家に対する信頼(理由)
問9-2 あなたが、問9-1でそう答えた理由は何ですか。あてはまるものをすべてお選びください。(○はいくつでも)


- 原子力の専門家を「信頼できる」とする回答者については、「専門的な知識を持っているから」が突出して多く、次いで「信頼したいから」「熱意を持って、原子力に携わっているから」と続く。
一方、「信頼できない」とする回答者については、「情報公開が不足しているから」「正直には話していないから」「管理体制や安全対策が不足しているから」が多く、「偏った見方をしているから」「私たちのことには配慮していないから」「私たちと考え方が違うから」と続く。
「どちらともいえない」とする回答者は、「情報公開が不足しているから」のポイントが高く、「管理体制や安全対策が不足しているから」「正直には話していないから」と続く。「信頼できない」とする回答者と類似の項目を選択することが多いが、そのポイント数はかなり低いことがわかる。

国に対する信頼
問10-1 原子力に関して、あなたは「国」を信頼できると思いますか。(○は1つだけ)


- 原子力について、国の信頼を聞いたところ、信頼できる(「信頼できる」+「どちらかといえば信頼できる」)という回答は9.2%であるのに対し、信頼できない(「信頼できない」+「どちらかといえば信頼できない」)という回答は51.0%。また、「どちらともいえない」という回答が39.5%。自治体(前回)と比べると、より信頼されていない。
年代別に見ると、10~60代で、年齢と共に、否定的意見が増加している。肯定的意見については、全体の数が少ないものの、年齢と共に、微増している。

国に対する信頼(理由)
問10-2 あなたが、問10-1でそう答えた理由は何ですか。あてはまるものをすべてお選びください。(○はいくつでも)


- 国を「信頼できる」とする回答者については、「信頼したいから」が最も多く、次いで「専門的な知識を持っているから」「私たちのことを配慮しているから」「熱意を持って、原子力に携わっているから」と続く。
一方、「信頼できない」とする回答者については、「情報公開が不足しているから」「管理体制や安全対策が不足しているから」「正直には話していないから」が多く、「自分たちの利益優先に感じるから」「私たちのことには配慮していないから」と続く。
「どちらともいえない」とする回答者は、「情報公開が不足しているから」「管理体制や安全対策が不足しているから」「正直には話していないから」のポイントが高く、「信頼できない」とする回答者と類似の項目を選択することが多いことがわかる。

原子力についての広聴・広報(国や自治体の取り組み)
問11 原子力に関して、あなたは国や自治体にどのような取り組みを望みますか。次の中からあてはまるものをすべてお選びください。(○はいくつでも)


- 原子力について、国や自治体に望む取り組みは、「情報公開」(62.8%)がもっとも多く、次いで、「安全管理規制の強化」(52.3%)、「事故原因の徹底究明」(50.7%)、ややポイントを落として「防災体制の強化」(46.8%)「放射線管理の徹底」(46.7%)、「事故に対する未然防止策の策定」(45.8%)と続く。「防災体制の強化」は今回からの項目であるが、その他の項目については、前回と大きく変わらない。

原子力・エネルギーについての広聴・広報(情報源)
問12 あなたは、ふだん原子力やエネルギーに関する情報を何によって得ていますか。
次の中からあてはまるものをすべてお選びください。(○はいくつでも)


- 原子力やエネルギーに関する日頃の情報源を訪ねたところ、「テレビ(ニュース)」(85.8%)、「新聞」(55.3%)、「テレビ(情報番組)」(40.6%)が主な情報源。インターネットでは、ニュースサイトが情報源としてやや高めのポイントを有する(19.9%)。
また、「家族、友人、知人との会話」も17.0%の回答がある。前回と比べて今回は、テレビを詳細に調べているが、その中でも、ニュースと情報番組という結果になり、CMはあまり見られていないという結果になった。また、「ニュースアプリ」も新設項目であるが、「ニュースサイト」のポイントには及ばない。その他は、大きな変化が無い。

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テレビニュースからの情報収集が突出して高い 上位4項目はメディア経由の情報源
原子力やエネルギーに関する日頃の情報源として、性別、年代問わず、「テレビ(ニュース)」が突出してポイントが高い。そして、「テレビ(情報番組)」、「新聞」と続く。若年層では、「新聞」のポイントが低くなるが、「インターネット上のニュースサイト」や「スマートフォンのニュースアプリ」のポイントが高くなる傾向がある。
10歳代は、「学校」や「特にない/わからない」が上位に入り、他では見られない特徴である。また、50~70歳代では、「雑誌」や「自治体の広報紙」、「ラジオ」が上位に入る傾向がある。 「家族、友人、知人との会話」は、突出して高いポイントではないが、性別、年齢を問わず、原子力やエネルギーに関する日頃の情報源として一定の割合を担っている。

表3「性別・年齢別の回答が多い上位6項目」
原子力についての広聴・広報(情報発信者への信頼)
問13 あなたは、原子力やエネルギーに関する情報について、どのような人や組織の発言を信頼しますか。次の中からあてはまるものをすべてお選びください。(○はいくつでも)


- 情報源の信頼としては、「専門家(大学教員・研究者)」(47.4%)が多く、次いで「国際機関」「評論家」「原子力関係者」である。「あてはまるものはない」という回答も27.9%ある。前回と比べ、専門家の信頼が若干減少しているが、大きな傾向は変わらないと言える。

原子力についての広聴・広報(イベント)
問14 以下に挙げている「原子力やエネルギーに関するイベント」の中で、参加してみたいものは
どれですか。あてはまるものをすべてお選びください。 (○はいくつでも)


- 原子力やエネルギーに関するイベント・施設の中で参加してみたいものとして、「施設見学会」(21.4%)、「勉強会」(14.2%)がやや高い。なお、「あてはまるものはない」がもっとも多く、56.9%を占める。前回の結果と同様の傾向である。
