原子力文化2021年01月号 インタビュー(抜粋)

コロナやがんのリスクをどう捉えるか
― 豊かに幸せに長生きするためには ―

昨年から続く新型コロナウイルス感染は、新年を迎えても、世界中で感染者数が増えています。
しかし、コロナ感染を恐れるばかりに、持病があるのに通院を控えたり、健康診断を避けたりすると、身近なリスクを見逃がすことにも繋がります。
「一連のコロナ騒ぎは、福島第一原子力発電所事故後の低放射線量被ばくの問題とのデジャブを感じる」という東京大学医学部附属病院放射線科准教授の中川恵一さんにお話を伺いました。   

東京大学医学部附属病院放射線科准教授
中川 恵一  氏 (なかがわ・けいいち)

1960年生まれ。85年 東京大学医学部卒業後、同医学部放射線医学教室に入局。89年 スイスPaul Scherrer Institute 客員研究室。2002年より現職。03〜13年 東京大学医学部附属病院緩和ケア診療部長を兼任。厚生労働省がん対策推進企業アクション議長、文部科学省「がん教育」の在り方に関する検討会委員を歴任。著書に『がんのひみつ』(朝日出版社)、『がんの時代』(海竜社)などがある。現在、日刊ゲンダイにて「Dr.中川のみんなで越えるがんの壁」を、日本経済新聞にて「がん社会を診る」を連載中。


―― 新刊『コロナとがん』を上梓されましたが、このコロナ禍の状況をどう思われますか。

私はもともとがんの臨床医で、私自身もがんになりましたが、日本人にとって、がんという病気は巨大なリスクです。年間38万人が、がんで命を落としていますし、今後、20年間増えていきます。
もちろん新型コロナウイルスに気をつけることは大事です。コロナを軽視するわけではありませんが、世の中にはさまざまなリスクがあって、ゼロリスクというのはあり得ないのです。一つのリスクを避けることは常に別のリスクを背負う。
例えば、目の前に猛獣やら猫やらネズミがいるとします。確かに猫に引っかかれるのは怖いかもしれない。けれども、猫に引っかかれるのはいやだと言って、隣の虎やライオンなどのほうに行っては命が危うくなる。新型コロナウイルスは、新型という病名もそうですし、マスコミも連日コロナ感染について報道するので、怖くなるのはよくわかります。
私は昨年4月の段階で、これからがんが増えるだろうなと予想していました。そして、東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故の時とよく似ている状況だとも、その段階から思っていました。
それで、昨年10月末に『コロナとがん』を出版しました。タイトルの中にがんという文字はあるのですが、これはがんの本ではありません。さまざまなリスクがある中で、がんは大きなリスクとして存在するけれども、リスクを全体として捉えていかなければならないということを伝えたくて書きました。
ですから『リスクが見えない日本人』というサブタイトルをつけたのです。

―― 先生は、日本人はリスクに対する考え方がなかなかできないと、著書やご講演などでおっしゃっていますが、風土的なものがありますか。

それは、あると思いますね。
日本は、のほほんと生きられる国です。欧米にしても、アジアにしても殺し合いをずうっとやってきたのです。
例えば、同じキリスト教でも、カトリックとプロテスタント間で内戦を繰り返すとか、イスラムとキリスト教で十字軍の戦いをやるとか、陸続きですから当然そうなります。多くの民族がより強い民族に蹂躙される、という歴史がありました。南米のインカ帝国も滅ぼされました。でも、日本が危機だったのは鎌倉時代中期に、元寇が襲来したときだけです。それもなぜか台風のような強風、神風に助けられたといわれています。それくらいしか他民族に侵略されるという経験はないのです。
また、日本には四季があって、海の幸・山の幸に恵まれて、苦労しなくても生きてこられました。
しかし、日本は災害が多い。ユーラシア大陸に沿って縦に長くて、その中央に急峻な山脈があるから、雨が降れば急流になる川もあります。ただ、地震もそうですが、自然災害については一種のあきらめができている。そのような背景から諸行無常が日本人の心に植え付けられたと思います。
ですから、全体としては苦労せずにここまできた民族で、世界史的にも珍しい存在だと思います。
日本には宗教など事実上ありません。クリスマスには、家族や友人と楽しく過ごしています。


 

(一部 抜粋)





2021年1月号 目次

風のように鳥のように(第133回)
いつもと違う冬/岸本葉子(エッセイスト)

インタビュー
コロナやがんのリスクをどう捉えるか/中川恵一(東京大学医学部附属病院放射線科准教授)

【新連載】世界を見渡せば(第1回)
「個室の中に入れておく」/関 美和(翻訳家・杏林大学外国語学部准教授)

追跡原子力
・川内原子力発電所一・二号機が再稼働
・原子力防災とは

中東万華鏡(第58回)
昭和天皇と中東―エジプト篇/保坂修司(一般財団法人日本エネルギー経済研究所 理事・中東研究センター長)

おもろいでっせ!モノづくり(第97回)
毎年年賀状を1200枚書きます/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)

ドイツでは、今(第31回)
終わり良ければすべて良し/川口マーン惠美(作家)

温新知故(第22回)
放射光が恐竜絶滅の環境を解明!/斉藤孝次(科学ジャーナリスト)

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