原子力文化2024年1月号 インタビュー(抜粋)

気候変動は海に何をもたらしたのか
― 温暖化防止対策とともに守るところを守る ―

冬だというのに静岡県の伊豆半島や千葉県の房総半島にはサンゴが増えて、熱帯魚が生息しています。 これは黒潮の蛇行によるものです。 昨今の気候変動は、地上ばかりでなく、海水温の上昇などさまざまな現象をもたらしています。 昨年の猛暑を振り返りつつ、新年を迎え普段見ぬ海の中を、国立環境研究所の山野啓哉さんと考察します。

国立環境研究所 生物多様性領域
領域長

山野 博哉  氏 

 

サンゴ礁の、過去から現在、そして未来へかけての変遷に関する研究を進めている。東京大学大学院 理学系研究科 地理学専攻 修了後、科学技術振興事業団プロジェクト研究員、国立環境研究所 社会環境システム研究部 情報解析研究室 研究員、フランス開発研究所ヌーメア本部 客員研究員、国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター 生物多様性評価・予測研究室 主任研究員等を経て現職。環境変化によるサンゴの生息場所や地形の変化のモニタリングと予測を行なって、適応のための情報提供を行なっている。



―― 昨年は記録的な猛暑日が続きました。海水温への影響はあるのですか。


ありますが、昨年はけっこう台風がきたので、海水温はそこまでは上がってないと思います。
台風がこない年がサンゴにとってまずいのです。


―― 台風がくると海水がかき回されて、水温が下がるからいいのですね。サンゴが白くなって壊滅する白化現象が最近よく問題になっていますが、白化を防ぐために何をやればいいのでしょう。


サンゴのストレスとして大きいのは海水温の上昇です。
ただサンゴの白化自体はさまざまなストレスで起こります。例えば、陸域から淡水や土砂が流れ込んだり。
人間で言うと、普段からストレスを受けている人が、加えて何か大きなことがあると、ストレスがない人に比べると反応が大きくなってしまう、ということがあります。
対策としては、まず気候変動の緩和です。温暖化を止めないどうしようもない。
そして、海水温以外のほかのストレスをなるべく減らすことです。陸域からの負荷、例えばサトウキビ畑など農地から土がけっこう出ています。そこから流れ出ない対策を行なう。
そういった対策を進めつつ、保護区のように「ここは何が何でも保護する」という場所を設ける必要があります。
例えば海といっても一様に温度が上がるわけではなく、潮通しのいいところは上がりにくいことがあります。今も温度が上がりにくい、将来も上がりにくいだろうところを検出して、そこをしっかり守る。さらにサンゴが卵を産んで、卵が流れて遠くまで運ばれることがありますので、上流になるようなところを守る。そういったメリハリをつけた形で保全をしていくことが重要と思っています。


サンゴが白化すると 魚がいなくなる 防波機能が弱くなる


―― サンゴが白化してだめになると何か問題があるのでしょうか。


まず一つは魚がいなくなってしまう。サンゴには、依存している魚やほかの生き物がたくさんいますので、そこにまず影響が出ます。水産資源への影響は問題になります。
またサンゴが死んで瓦礫のようになると、景観が良くない。観光面での影響も非常に大きいと思います。
長期的な話になりますが、サンゴは積み重なってサンゴ礁という地形を作り、天然の防波堤になっています。外洋からの波を砕いて、例えば台風のときや高潮のときなども陸を守ってくれています。その防波機能はサンゴが死んでしまうと、表面の摩擦が小さくなって、波を砕く力が弱まってしまいます。しかし、将来海面が上昇したときも、サンゴが健全な状態であれば、サンゴが生きた状態で積み重なっていって防波構造が維持されます。海面上昇の速度にもよりますが、サンゴが棲めない状況ですと、単純に防波堤が沈むという感じです。波が大きくなってしまいます。


―― 南太平洋の島々は海面上昇で沈むのではないか、という話がありますが。


そのとおりです。波が高くなるということと、ツバルのような島国はサンゴのかけらや有孔虫などサンゴ礁に棲んでいる生き物の殻でできているので、そういう生き物がいなくなると、国土の材料がなくなって、波にも浸食されて、非常にまずいですね。


―― サンゴは二酸化炭素を吸収するという話を聞いたことがあります。


サンゴは二酸化炭素を吸収しません。なぜかといいますと、サンゴ自体は生き物で、体の中に褐虫藻を持っていますので、光合成をします。その光合成のプロセスは二酸化炭素吸収ですが、同時に石灰化と言って骨を作ります。そうしますと、その骨を作るときに二酸化炭素を出してしまいます。条件次第ですが、プラマイゼロくらいと考えればと思います。
サンゴは炭酸カルシウムの骨格を作るので、二酸化炭素を吸収しているのではないかというイメージがあるのではないかと思います。しかし、実際は、骨格を作る石灰化のプロセスは、ざっくり言うと陸から流れ込んできた二つの炭素のうちの一つを使って固定するけれども、その過程でもう一つを出してしまう、そういうことで石灰化自体が放出なのです。光合成もやっているので、光合成と石灰化でプラマイゼロくらいになるのです。

(一部 抜粋)





2024年1月号 目次



インタビュー
気候変動は海に何をもたらしたのか/山野博哉〈国立環境研究所 生物多様性領域領域長〉

世界を見渡せば(第36回)
マイケル・ルイスと私/関美和(翻訳家・杏林大学外国語学部准教授)

追跡原子力
手術をしなくてもがんを治療

中東万華鏡(第94回)
テヘランのコカ・コーラ/保坂修司(一般財団法人日本エネルギー経済研究所 理事・中東研究センター長)

おもろいでっせ!モノづくり(第133回)
今年の年賀状は「春風接人」です/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)

ドイツでは、今(第67回)
科学技術の発達が能力に影響?!/川口マーン惠美(作家)

ベクレルの抽斗(第16回)
世界はきっと良くなる/岸田一隆(青山学院大学経済学部教授)

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