一般財団法人 日本原子力文化財団

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vol.28(2023/3/8)

発明とエネルギー


早川書房文庫・“ねじとねじ回し”を読みました。
副題に「この千年で最高の発明をめぐる物語」とあります。
“ねじとねじ回し”は、あまりに日常的ですので、“発明品”と言われて初めて“そうか”と気が付きます。少し連想を広げてみました。


<連想>

身の回りを改めて見回すと、これも発明品かなと思うものが少なくありません。一例ですが、衣服の“ボタン”、“ジッパー”や“マジック・テープ”などもそうです。どのようにして思いついたのだろうかと思わず考えてしまいます。
“マジック・テープ”などは、ゴボウの仲間の野草・“オナモミ”の種が服にくっつくことから考えついたといいます。
“まっさん”も、まだそこ此処に野原(のはら)のあった子供の頃、野原をかき分けて歩くと、オナモミの種が服についてなかなか取れなくて、悩まされたこと思い出します。“ボタン”も間違いなく大発明ですね。誰が“いつ”どのようにしてつくりだしたのでしょうか。
少し話が飛びますが、日常飲んでいるワインの世界にも同様なものがあります。“ガラス瓶とコルク栓”です。金属のスクリュウ状の“栓抜き”などもそうでしょう。コルク栓は、清潔で弾力性に富み、四半世紀も長持ちします。これらは、18世紀の初めから使われたようです。
エネルギー分野での発明、それも、日本の発明はどうでしょう。
ありました!


<戦後一番の発明は、“内視鏡”>

日本発明協会が2016年、“戦後日本のイノベーション100選”を公表しています。
戦後復興期を始めとして、現代までを四世代に分けて年代順に100のイノベーションを一覧表にしています。
イノベーションのナンバー・ワンは、“内視鏡”です。次に、インスタント・ラーメン、マンガ・アニメ、新幹線と続きます。なるほどと納得するところです。

公益社団法人発明協会 戦後日本のイノベーション100選
http://koueki.jiii.or.jp/innovation100/index.html


<エネルギー分野での発明>

このイノベーション100の中にエネルギーがあります。
“イノベーション100選”に取り上げられているエネルギーは、LNG(液化天然ガス)の導入です。日本は、都市ガスと火力発電用燃料として、LNGを導入しました。火力発電用燃料としてのLNG利用は世界最初でした。


<最初のLNG>

日本が初めて受けいれたLNGは、東京ガスがアラスカから導入しました。LNGを積んだ“ポーラ・アラスカ号”がアラスカで液化したLNGを横浜の根岸工場で受け入れました。1969年=昭和44年のことです。隣接地には、東京電力の南横浜火力発電所があります。横浜市長は飛鳥田一雄市長でした。


<往時の状況…大気汚染>

時代は高度経済成長期で、電力需要が年に二桁近く伸びていました。
臨海工業地域では、火力発電所などから排出される硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)が大気汚染源として問題となっていました。東京電力は、大気汚染対策として、都心に立地する大井火力発電所(2022年廃止)では、大変に値段の高いインドネシアのミナス原油の“生だき”をしていました。
火力発電用燃料として天然ガス:LNGを使うとSOxは出ません。大気汚染対策になるのです。ただ、LNGはこれも大変に高い燃料でした。LNGは、天然ガスを零下162度にまで冷却して液化したものです。まず、輸出もと・アラスカで液化します。そして、輸送・貯蔵など全ての工程で専用設備が必要です。当然、設備に大変にお金がかかります。おのずから大量に消費しないと、単位当たりの固定費を小さくできません。


<東電トップの決断…“自分が決める!”>

LNGを火力発電の燃料とすることを思いたのは、東京ガスの当時の村上武雄社長さんと安西浩会長さんでした。昭和40年=1965年頃のことです。火力発電は、今でこそ、熱効率が60%もの高効率が実現されています。しかし、往時は40%ほどでしたからことさら燃料消費量は多量でした。LNGは、多量に利用して初めて経済性が出るわけです。
東京ガスのお二人は、東京電力の木川田一隆社長に火力発電燃料にLNGを利用することを持ち掛けました。これに応じて、木川田社長はLNGを火力発電燃料として利用することを決めました。
しかし、東電社内は一筋縄ではゆきませんでした。
LNG導入を諮った役員会では、社長を除く取締役全員が反対でした。理由は、“高い!” 役員会で木川田社長は“これは自分が決める!”と言って決断しました。 加えて、海外からは天然ガスを発電用燃料に使うことについて、“ノーブル・ユースに反する”とする批判もあったそうです。
LNGの日本導入の経緯を語ってきました。


<増えるLNG>

ここで目を世界に転じてみます。
現在(2021年)、天然ガスは、世界のエネルギー供給の23%をまかなっています。輸送を見ると、その内およそ6割はパイプライン輸送によります。LNGによるものは、残りの約4割です。
しかし、ロシアのウクライナへの軍事侵攻の影響で、ヨーロッパ諸国はエネルギー選択を見直しています。
天然ガスについては、LNGによる輸入が増えてきています。しかし、前述した通り、LNGの受け入れには、専用のターミナルなどが必要ですから、ヨーロッパのLNG受け入れ増量の本格的実現には、少し日時を要さざるを得ないと思われます。


<原子力発電も>

ヨーロッパでは、原子力発電も改めて評価されています。国によっては、計画している運転停止時期を引き延ばしたり、ポーランドのように、大規模原子力発電所の建設を進めようとする国々が出ているのが最近の状況です。



出典:原子力・エネルギー図面集



理事長 桝本 晃章



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