原子力総合パンフレット Web版

福島第一原子力発電所の廃止措置に向けた取り組み

放射線の健康影響評価

福島県民を対象とした健康調査を実施した結果に対し、福島県の検討委員会は、 「放射線による健康影響があるとは考えにくい」と評価しています。

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福島県での調査

福島県は、政府の原子力緊急事態宣言を受け、2011年3月12日から住民のスクリーニングを開始しました。スクリーニングとは、服や体の表面についている放射性物質の量を測定して、被ばくや放射性物質による汚染に対応した処置(被ばく医療)が必要かどうかを判断するものです。
延べ人数で県内の人口の1割を超える20万人以上がスクリーニングを受けましたが、治療が必要な人はいませんでした。

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県民健康調査

将来にわたり福島県民の健康を継続的に診ていくために、2011年7月に県民健康管理調査が開始されました(2014年度より県民健康調査に改称)。
県民健康調査には、「基本調査」と「詳細調査」があります。

【基本調査(外部被ばく線量の推計)】

「基本調査」は、福島県の住民全員を対象にしています。問診票によって、各住民の2011年3月11日以降の行動を把握し、7月11日までの4か月間に外部被ばくした量を推計する調査です。
2017年6月末で、調査対象者205万5,258人のうち、55万2,298人の推計作業が完了しています。このうち、放射線の業務従事経験者と推計期間が4か月未満の方を除いた、46万4,420人の推計結果をみると、約94%が2ミリシーベルト未満で、最高値は25ミリシーベルト、平均値は0.8ミリシーベルトとなっています。
この結果に対し、福島県の検討委員会は、「放射線による健康影響があるとは考えにくい」と評価しています。

【詳細調査】

「詳細調査」には、甲状腺超音波検査や避難区域などの住民を対象に検査項目を充実した健康診査、こころの健康度・生活習慣に関する調査、妊婦に関する調査などがあります。
・甲状腺超音波検査
震災時に0歳~18歳までの全県民(県外への避難者も含む)約38万人を対象として、2011年10月から先行調査が実施されました。
2014年4月からは、事故直後の2011年4月2日から1年間に生まれた新生児も対象に加え、本格調査が実施されました。
27万515人が検査を受診し、「A1判定(結節やのう胞なし)」が40.2%、「A2判定(5mm以下の結節や20mm以下ののう胞あり)」が59.0%、「B判定(5.1mm以上の結節や20.1mm以上ののう胞あり)」が0.8%、「C判定(直ちに二次検査を要する)」が0%でした。このような結果は、福島県以外の3県で実施された調査結果と変わらない割合となっています。
さらに、2016年5月からは、先行調査および本格調査(1回目)に引き続き、2回目の本格調査が実施されています。12万3,857人が検査を受診し、「A1判定」が35.0%、「A2判定」が64.4%、「B判定」が0.6%、「C判定」が0%でした。

【内部被ばく検査】

2011年6月~2017年10月の累計で32万7,434人がホールボディカウンターによる内部被ばく検査を受け、1ミリシーベルト未満が32万7,408人、1~3ミリシーベルトが26人、それ以上は0人でした。

県民健康調査

県民健康調査

※福島県ではホールボディカウンター23台体制(2016年12月現在)で検査をしています。

出典:福島県ホームページより作成

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住民の被ばくと健康への影響

国際的な専門家集団であるUNSCEARは、2014年4月に「2011年東日本大震災後の原子力事故による放射線被ばくのレベルと影響」(2013年報告書)を公表しました。
その後も継続してフォローアップを行い、「UNSCEAR2017白書」が公表されました。2013年報告書の評価や結論に変更はないとしています。
福島県の成人住民が、事故発生から1年の間に受けた放射線の推計量は、約1~10ミリシーベルト、とくに放射線の影響を受けやすい1歳児では、成人の約2倍でした。

甲状腺への影響については、事故当初にいた場所によって異なりますが、成人が最大35ミリシーベルト、1歳児が約80ミリシーベルトと推計されました。この数値は、チェルノブイリ事故による平均の甲状腺被ばくの約500ミリシーベルトと比較すると大幅に低いため、放射線の影響により甲状腺がんが多数発生すると考える必要はないとしています。
また、福島県が実施している超音波による甲状腺検査で、比較的多数の甲状腺異常が見つかっています。しかし、これは、事故の影響を受けていないほかの地域で行われた類似の調査結果と一致しています。このような集中的な精度の高い検診を行えば、通常は検出されなかったであろう甲状腺異常が、今後、比較的多く見つかると予測しています。
胎児や幼少期・小児期に被ばくした人の白血病や乳がんの発生数の変化は、今のところ不確かさの範囲にとどまること、また、被ばくした人の子孫に遺伝性の影響が増加することはないとしています。
このほか、世界保健機関(WHO、The World Health Organization)でも健康評価が行われ、がんの発生率が増加する可能性は低いとしています。

専門情報:首相官邸「東電福島第一原発事故に関するUNSCEAR報告について」

根拠データ:UNSCEAR「UNSCEAR2013年報告書」

ワンポイント情報

日本学術会議報告「子どもの放射線被ばくの影響と今後の課題」

日本の人文・社会科学、生命科学、理学・工学の分野にかかわる約84万人の科学者を代表する機関である日本学術会議は、2017年9月1日に、「子どもの放射線被ばくの影響と今後の課題―現在の科学的知見を福島で生かすためにー」と題する報告を公表しました。報告書では、災害弱者であり、放射線による影響(放射線感受性)が大人よりも高いといわれる生後0~18歳の子どもにスポットを当て、これまでに発表されている放射線の影響や線量評価に関する科学的知見を整理し、また、事故後に調査された健康影響に関するデータや社会の受け止め方についても分析を行い、以下のようにまとめています。

◆胎児への影響について

  • ●福島第一原子力発電所事故の影響で起こる可能性があると考えられる胚や胎児の吸収線量(放射線のエネルギーを吸収する量)は、胎児に影響が発生すると考えられる値よりもはるかに低い
  • ●死産や早産などの発生率に事故の影響はみられないことが証明された

◆チェルノブイリ原子力発電所事故との比較

  • ●福島第一原子力発電所事故による放射性物質の総放出量は、チェルノブイリ原子力発電所事故の7分の1ほど
  • ●福島県の被ばく線量は、被ばく線量が比較的高いと予測される地域であっても、チェルノブイリ原子力発電所事故よりはるかに低い

◆甲状腺がんについて

  • ●福島県による超音波検査で甲状腺がんが約0.037%の頻度で検出されていることについて、「原発事故の影響がある」という意見と「放射線の影響は考えにくい」という意見がある
  • ●しかし、地域や外部被ばく線量が違う場合でも、発見頻度に意味のある差はみられず、この結果は、今まで検査をしていなかった対象者や地域に幅広く検査を行ったため、症状の現れていない人にも正常とは違う検査結果が見つかったと考えられている

◆今後の課題

課題として、「科学的事実の蓄積があり、実際の被ばく線量が明らかにされつつあるものの、子どもへの健康影響に関する不安がなかなか解消されない」ことを挙げています。また、防護方策の強化を行うことで社会全体の健康不安はだんだん静まってはいるものの、その分、不安を抱える人々が孤立化し先鋭化してきていると指摘しています。そして、科学的に見れば容認できる程度の放射線リスクが、被災者に理解・容認されてはいない現状も明らかになっており、コミュニケーションの必要性が高まっているとしています。

根拠データ:日本学術会議報告「子どもの放射線被ばくの影響と今後の課題」

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