「望ましいエネルギーミックスを考える」

2021年11月29日 柏崎市



1. はじめに

本日のタイトルは「望ましいエネルギーミックスを考える」と題し、以下の3点についてお話しする。
1つ目は「エネルギー政策基本法と第5次エネルギー基本計画」。
2つ目は「第6次エネルギー基本計画の概要と課題」。第5次エネルギー基本計画で脱カーボンに向けて大きく舵を切ったのを受け、今回のエネルギー基本計画の議論、これからの日本のエネルギー計画をどのように進めていくのが良いかを考える。
3つ目は「S+3Eの高度化とエネルギー政策の今後」である。S+3EのSはセーフティー(Safety)、安全性。3Eの1つ目のEは、エネルギーセキュリティ(Energy Security)、エネルギーを確実に日本で確保していくこと。2つ目のEは、エコノミカルエフィシェンシー(Economic Efficiency)、エネルギーを安定的に安く供給できること。3つ目のEが、エンバイロメント(Environment)、環境適合性である。
現在、カーボンニュートラルが、日本をはじめ世界中の国の政策の中心課題であり、安定的に、安価に確保するエネルギーが環境に適合するエネルギーを供給していくために何を考えていくべきかお話しする。


山口 彰 氏(東京大学大学院工学系研究科教授、日本原子力学会会長)

2. エネルギー政策基本法と第5次エネルギー基本計画

まずは、なぜ最初にエネルギー政策基本法を挙げたのか、エネルギー基本計画は何のために作るのか、どのようなものかを確認することが重要であり、改めてエネルギー政策基本法を振り返り、第5次エネルギー基本計画を復習する。

  1. エネルギー政策基本法
    「エネルギーの需給に関する施策を長期的、総合>的かつ計画的に推進し、それにより地域及び地球の環境の保全に寄与し、我が国及び世界の経済社会の持続的な発展に貢献する」を目的に、2002年に策定された。
  2. 第5次エネルギー基本計画
    2018年7月に策定。2030年の計画(長期エネルギー需給見通しに示された、エネルギーミックスの着実な実現)と、2050年の方向性(エネルギー転換を行い、脱炭素化に挑戦する)を示した。
    2050年の二酸化炭素80%削減は、可能性と不確実性が混在する目標のため、「野心的かつしなやかな複線シナリオ」とされ、さらに、この実現には、非連続の技術開発が必要で、最新の情勢と技術革新の進展を見極めながら、各選択肢の開発目標、選択肢間の相対的な重点度合いを決定・修正していく仕組み「科学的レビューメカニズム」の構築がポイントである。
  3. 第5次エネルギー基本計画における原子力の位置づけ
    日本のエネルギーを大きな視点で議論するエネルギー情勢懇談会において、エネルギーの選択は、年間の電気代が16兆円、化石資源の輸入額が15兆円という巨額コストが必要な重要な選択であるという提言がなされた。
    それを受け、基本政策分科会で第5次エネルギー基本計画が議論され、その中では、2030年に向けて低炭素の準国産エネルギー源として、原子力は優れた安定供給性と効率性を有し、運転コストが低廉で変動も少なく、運転時に温室効果ガスの排出もないといったメリットから、原子力は、安全性の確保を大前提に、長期的なエネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源であるとされ、あわせてベースロード電源は、安定的に供給できること、単価、コストが安いこと、比較的規模が賄えることができるものと位置付けられた。
    そして、東京電力福島第一原子力発電所事故を経験した我が国としては、2030年のエネルギーミックスの実現、2050年のエネルギー選択に際して、原子力は安全を最優先し、再生可能エネルギーの拡大を図る中で、可能な限り原発依存度を低減すると示された。


3. 第6次エネルギー基本計画の概要と課題
  1. 第6次エネルギー基本計画の概要
    2020年7月、総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会において「エネルギー政策の方向性」を議題として議論が再開。パブリックコメント等を踏まえて、2021年10月22日閣議決定された。

    第6次エネルギー基本計画の方針の一つ目は、安全の確保を大前提としつつ、安定的で安価なエネルギー供給の確保、気候変動問題への対応、S+3Eの大原則をこれまで以上に追求していくため、あらゆる政策を総動員すること。
    二つ目に、この野心的な目標の実現を目指し、既存の技術を最大限活用し、エネルギーの脱炭素化を進めつつ、現時点では社会実装されていない脱炭素技術について開発・普及させることである。

    これまでのエネルギー基本計画は、基本的には「資源自給率」と「エネルギーコスト」の二つだけで議論してきた。これからのエネルギー政策では、これだけでなく、地政学・地経額的リスク、サイバーリスク、各エネルギー源のリスクなど、「多様なリスク」を考えながら政策決定する考え方が示された。資源自給率と合わせて「技術自給率」も大事だという議論もあった。

    議論の過程を紹介する。
    2020年6月、エネルギー供給強靱化法が制定され、来年4月施行される。最近の自然災害の頻発、地政学的リスク変化、再生可能エネルギーの主力電源化という方針を受け、エネルギー強靱化が必要になったためである。そこには電気事業法、再生可能エネルギー特別措置法、JOGMEC法が関連している。
    それを受け20年7月基本政策分科会の議論が再開。エネルギーの転換、資源・燃料の安定的調達、脱炭素のエネルギー供給、エネルギー環境イノベーションへの取組、エネルギーレジリエンス、強靱化などの課題が指摘され議論が始まった。環境問題への関心が非常に高まり、パリ協定を踏まえ6つの視座が示された。
  2. 第6次エネルギー基本計画の課題
    ところが菅政権に変わり、菅内閣総理大臣は2050年時点でカーボンニュートラル達成を宣言。
    これにより、パリ協定を踏まえた減炭素から脱炭素へ大きく舵を切ることになった。さらに今年4月、2030年時点の目標を26%削減から46%削減にし、さらに50%の高みを目指して挑戦を続ける目標に。これがエネルギー政策の主要な道筋となり、2050年の姿を描き2030年にバックキャストして政策を定めるアプローチになった。今の技術の延長線上の折り合いをとったことは悩みが大きかった。

    また、発電コストの点も非常に議論になった。またエネルギーミックスのシナリオの分析結果報告もあったが、分析の前提条件が不統一であり、結局議論は収れんしなかった。政策を明示的に定めたとは言い難いが、大きく変化する社会情勢の中で進むべき方向性を提示していること、エネルギー政策分析がまだ十分に進展していないことを以ってすれば、これ以上議論を続けるよりも、早く具体的な政策を進めながら、まさに科学的レビューメカニズムでフィードバックし、修正を図る戦略の方が良いと、多数決により最終案は座長一任として可決し、議論は終結した。

    再生可能エネルギー、火力発電、原子力など各エネルギー源の方針がある。注意すべきは、省エネも相当程度減らしており、それによってCO2排出量は今の目標26%から46%となる。

    CO2排出量を削減するのはもちろん大事である。エネルギーの安定供給やエネルギーコストと安全性を合わせてバランスよく実現することが大事であるが、CO2削減は相当チャレンジングである。
    CO2排出量を削減するためには、エネルギー消費割合は高いが、電化割合の低い産業部門、運輸部門における電化の加速、促進が必要である。それから、水素の利用拡大、再エネを最大限導入しつつレジリエンスを高めるため、原子力の活用と蓄電の普及を上手く使っていく方向があると思われる。

4. S+3Eの高度化とエネルギー政策の今後
  1. S+3Eがエネルギー政策の基本

    S+3Eがエネルギー政策の基本であるということが再確認された。個人的には、これにレジリエンスを入れたい。エネルギー政策の要諦は、安全性を前提とした上で、エネルギーの安定供給を第一とし、経済効率性の向上による低コストでのエネルギー供給を実現し、環境への適合を図るS+3Eの実現のため、最大限の取組を行うことが必要である。
    2030年に46%CO2を削減し、さらに50%の高みを目指す。この野心的な見通しが実現された場合でも、エネルギー自給率は約30%、CO2削減は約45%。エネルギーセキュリティ30%というのは、これ以下では危機的数字である。
    そして電力コスト全体は現行から下がるが、IEAの見通しはコストを非常に楽観する傾向にあり、このままでは経済効率性は非常に大変な状況になると思われる。
  2. 技術自給率の重要性
    日本のエネルギー需給構造が抱える課題の克服がもう一つの重要なテーマ。需給構造の課題を克服して、S+3Eに向けた取組の重要性が指摘され、あわせて技術自給率が示された。私も技術自給率は大変重要なポイントと考えている。野心的な目標を目指す上で、エネルギーセキュリティはこれまでは資源の自給率のことだったが、意味合いを拡張したと思われる。
    エネルギーそのものの自給性、強靱性を高めることはもちろん大事だが、その技術を国内で調達できる技術自給率が必要で、これは特に化石資源の乏しい日本にとっては不可欠である。さらに、エネルギーのサプライチェーンの中でコア技術を自国で確保し、電動車や再エネ設備に欠かせない銅やレアメタル等の物資をどのように確保するか、これも技術自給率の一つである。
    つまり、技術自給率とは、エネルギーにとってのコア技術を自国で確保し、その革新を世界の中でリードする割合であり、国内のエネルギー消費に対して自国技術で賄えているエネルギー供給の程度と定義される。
  3. これからどうするか
    第5次基本計画は、野心的な目標と科学的レビューという二つのバランスが中心的なポイントで、第6次基本計画は、技術動向や情勢の変化を定期的に把握・検証し、透明な仕組み、手続の下、評価・検討していくことが重要であると指摘している。
    これを受けてエビデンスベースの政策決定に転換する必要があるのではないか。つまり、より高度なS+3Eを実現したければ、野心的な目標とスローガンを掲げているだけでは駄目で、定量的かつエビデンスに基づくエビデンスベースの政策決定に舵を切っていくべき。そうすると、第5次基本計画での科学的レビューメカニズムの役割や意義が明らかになる。

    また、欧州で天然ガスが不足して価格が年初来の5倍弱になり、アジアでも液化天然ガスのスポット価格が史上最高となった。それから、今の気候変動の関係で、化石燃料への投資が世界的に落ち込んでいるし、コロナ禍が明けて経済活動が再開されたがエネルギー不足が顕在化してきた。気候変動の影響も出ており、こうして見ると、エネルギー政策というのは改めて総合的な政策である。

    これからは、石炭は落ちていくが、技術開発で石炭で燃えたCO2を閉じ込める技術を開発し、石炭ももっと使われるのではないかと思う。当然、原子力も安定的に、しかも、安価に作れる電力なので安定的に使われる。
    我々はエネルギーがとても大事なので、使えるエネルギーは技術開発を使って色々使っていくと思われる。だから、何かの技術に課題があるからといって簡単に諦める、例えば石炭はCO2を出すからやめるでは進歩はない。それを技術で何とか課題を克服する努力をしていくことが進歩であり、負の側面を見てそこで諦めてしまう姿は間違っていると思われる。最近、何かを変えれば、何かを捨てて新しいものに飛びつけばよくなるのではないかというムードがあるが、私は、エネルギーの問題はそういうものではなく、使えるものを大事に使っていく、そのために課題とされているものをきちんと克服して大切に使う、それが正しい姿であると思っている。
  
5. 最後に(望ましいエネルギーミックスのために)