- 1
2050年カーボンニュートラル達成に向けて
2020年10月、菅内閣総理大臣は日本が2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。
カーボンニュートラルとは、温室効果ガスをできる限り低減し、排出せざるを得なかった分については、同じ量を「吸収」または「除去」することで、全体として温室効果ガスの排出を差し引きゼロにすることです。
カーボンニュートラルの達成のためには、温室効果ガス排出の8割以上を占めるエネルギー分野の取り組みが重要ですが、ものづくり産業がGDPの2割を占める産業構造や自然条件を踏まえても、その実現は容易なものではありません。
電力部門は、再生可能エネルギーや原子力などの実用段階にある脱炭素電源を活用し、着実に脱炭素化を進めるとともに、水素・アンモニア発電やCCUS(CO2回収・有効利用・貯留)/カーボンリサイクルによる炭素貯蔵・再利用を前提とした火力発電などのイノベーションを追求していくことが必要とされています。そして、最終的にCO2の排出が避けられない分野は、DACCS(直接大気回収・貯留)やBECCS(バイオエネルギーCCS)、森林吸収源などにより対応していきます。
このようにカーボンニュートラルの実現に向けて、あらゆる選択肢を追求していくとされています。
■2050年に向けて~ 各エネルギーに関する主な方向性
● 再生可能エネルギー
主力電源化を徹底し、最優先で取り組み、国民負担の抑制と地域との共生を図りながら最大限の導入を促す。導入にあたり、系統容量の確保や系統混雑の緩和、脱炭素化された調整力の確保などの課題に対応する。
● 原子力発電
現状、実用段階にある「脱炭素化」の選択肢であるが、社会的信頼の回復が不可欠。人材・技術・産業基盤の強化に着手し、安全性・経済性・機動性に優れた原子炉の追求、廃炉や廃棄物処理・処分などのバックエンド問題の解決に向けた技術開発を進めていく。
● 火力発電の脱炭素化
現状、火力発電は再生可能エネルギーの変動性を補う調整力として重要な機能を保持していることを踏まえ、安定供給を確保しつつ、燃料そのものを水素・アンモニアに転換させることや、排出されるCO2を回収・貯留・再利用することで脱炭素化を図っていく。
- 2
今後の原子力政策の方向性と実現に向けて
2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、経済社会システム全体の変革、すなわちGX(グリーントランスフォーメーション)を実行するべく、GX実行会議(議長:岸田文雄首相)が2022年7月27日より開催されています。そして、「第6次エネルギー基本計画」などに則り、GX実行会議や政府の審議会などにおける議論を踏まえ、12月8日に「今後の原子力政策の方向性と実現に向けた行動指針(案)」が発表され、12月22日にGX実行会議で承認されました。概要は次の通りです。
■[今後の原子力政策の方向性と実現に向けた行動指針の概要]
再稼働への総力結集
再稼働に関しては、事業者が幅広い関係者と連携した安全マネジメント改革を行う「自主的安全性の向上」や、地域ニーズに応じた多面的支援、防災対策の不断の改善等を行う「立地地域との共生」、一方通行的な情報提供にとどまらない、質・量の強化・充実などを行う「国民各層とのコミュニケーション」について総力を結集し実施することとしています。
既設炉の最大限活用
今ある原子力発電所については、原子力規制委員会による安全性の確認を大前提とし、運転期間に関する枠組みを整備するとしています。具体的には、立地地域や国民の意見や制度の連続性などにも配慮し、運転期間上限は引き続き設定し、一定の停止期間についてはカウントから除外することとしています。また、理解確保や研究開発の進展、国際基準の動向なども継続評価し、必要に応じた見直しの実施を明確化するとしています。
また、安全性の確保を大前提に、運転サイクルの長期化、運転中保全の導入拡大などに取り組むこととしています。
次世代革新炉の開発・建設
安全性の確保、地域社会の理解の確保を大前提に、新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設に取り組み、まずは廃止が決定した炉の建て替えを対象に、バックエンド問題の進展も踏まえつつ具体化することとしています。その他の開発・建設は、再稼働状況や理解確保の進展など、今後の状況を踏まえ検討するとしています。
一方、次世代革新炉への投資促進も示されています。また、官民のリソースを結集して、実効的な開発態勢を整備すること(アメリカ・イギリス・フランスなどとの戦略的な連携など)や、人材育成の基礎も構築するとしています。
バックエンドプロセスの加速化
核燃料サイクルについては、再処理工場しゅん工目標の実現、プルサーマルの推進や使用済燃料の貯蔵能力拡大への取り組みを強化するとしました。具体的には、安全審査などへの確実・効率的な対応、地元理解に向けた取り組み強化、国も支援し、主体的に対応することが示されました。
また、廃炉については着実・効率的な実現、クリアランス対象物の再利用促進が掲げられています。
一方、最終処分の実現に向けて、事業の意義、貢献いただく地域への敬意などを社会に広く共有し、国の主体的取り組みを抜本強化するとして、国と原子力発電環境整備機構(NUMO)・事業者の連携による情報提供の強化をはじめ、国主導での理解活動の推進、NUMO・事業者の地域に根ざした理解活動の推進、NUMOにおける技術基盤の強化、国とNUMOの連携による国際連携の強化が示されました。
サプライチェーンの維持・強化と国際的な共通課題解決への貢献
国内サプライチェーンの維持・強化や再構築、海外プロジェクトへの参画支援、世界の原子力安全・核セキュリティ確保への貢献が示されました。
■原子力政策の今後の進め方
出典:経済産業省 「2050年カーボンニュートラルを見据えた次世代エネルギー需給構造検討小委員会資料」より作成