月刊誌 原子力文化 インタビュー

原子力文化2016年12月号 インタビュー(抜粋)

今、世界で何が起こっているのか
― 日本は、ソフトパワーを生かした外交をもっと重視すべき ―

アメリカではトランプ大統領が選出され、他方、ヨーロッパではイギリスの欧州連合(EU)離脱派の勝利、テロ・難民問題など、世界情勢がめまぐるしく動いています。そのような中、日本はどのように立ち振る舞うべきなのでしょうか。2017年の世界情勢について、東京外国語大学国際関係研究所所長の渡邊啓貴さんにお話しを伺いました。

東京外国語大学国際関係研究所所長
渡邊 啓貴  氏 (わたなべ・ひろたか)

1954年 福岡県生まれ。東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授。専門は国際関係論。東京外語大学外国学部フランス語学科卒業、パリ第一大学博士課程修了後、京都外国語大学助教授、東京外国語大学教授などを経て現職。2008年から2年間、在仏日本国大使館文化担当公使、また、雑誌『外交』編集委員長を務めた。『アメリカとヨーロッパ』(近刊)、『現代フランス』『シャルル・ドゴール』『米欧同盟の協調と対立』など著書多数。

―― 今年6月のイギリスの国民投票では、移民・難民排斥を主張するEU離脱(BREXIT)派が勝利し、11月には排外主義や孤立主義を提唱する共和党のトランプ氏がアメリカ大統領に選出されました。欧州各国ではフランスを始めとして「ポピュリズム」(大衆迎合主義)と呼ばれる動きが活発になっていると言います。こうした現象は続くのでしょうか。

はい。そうした兆候は当面あると思います。ただ、現在のポピュリズムに思想的な背景がどのくらいあるのか。つまり運動として今後組織化していけるだけの強固な背景を持ったものなのか、どうかということで、その今後を占う評価は違うと思います。
今、欧州各国で勢いを得ているポピュリズムの動きは、社会的な不満分子を糾合することによるものです。グローバリゼーションや欧州統合の影で「取り残された人々」の不満を反映しています。経済・社会格差が前提となっています。
フランスの極右「国民戦線(FN)」を例にとりますと、70年代半ば高度経済成長が終了し、外国人の受け入れが難しくなり、移民統合が社会問題化するなかで勢いを得ました。
しかし、90年代にEU域内市場統合が進み、21世紀にかけて欧州経済が好転した時期には勢いを失います。特定の数の伝統的な排外主義者は常に存在しますが、それだけでは限界があります。ユーロ危機、欧州統合の失速状況のなかで弱者にしわ寄せがくる。そうした社会的風潮を反映しているのが、最近の動きではないでしょうか。
その意味では右でも左でもよい、ということになります。

―― それはイギリスのEU離脱でも同じでしょうか。

イギリスでEU離脱を支持した人は、悪いものは全てEU統合に押しつけました。雇用喪失や生活苦という社会の底辺層の悩みです。ヨーロッパ全体で極右が伸びているのは、それが理由です。
人種差別主義、外国人排除主義だけでは選挙に勝てない。彼らは本気で社会全体の仕組みを責任ある立場から考えているわけではないから、統合の発展によって自分たちに負担が押し付けられていると考えています。
その責任は政治指導者にある。とくに自分たち庶民の痛みを理解できない「エリート」が悪い、と考えます。格差のなかでの「エリート対庶民」という対立構図です。

イギリスは最終的には離脱しないのではないかと思っている

―― イギリスのEU離脱の行方はどうなのでしょうか。

イギリスは実際にはまだ離脱していません。
今は、「国民投票でEUからの離脱を一応決断しましたが、本当に実現するのでしょうか」という段階です。
イギリスのメイ首相は、国内外の混乱を抑えるため、10月初めの欧州首脳会議で「年明けを目途に3月末までに通告する」と言いました。どういう形の離脱を取るかにもよりますが、通告してからの2年間で、国内整備や条約を結んで初めて本当に離脱になります。要は、まだ時間を要するということです。
私は少し楽観論で、イギリスは最終的には離脱はしないのではないか、と思います。再投票なり、議会での残留の議論が起こるのではないかと思っています。
というのは、いったん国民投票で離脱という選択はしたが、イギリスがそれによってよい方向に向かうわけではない。
とりあえず、今はポンド安により観光客が増えたり、一部好況となったりしているところがあるようですが、全体的に離脱によるプラスの要素は少ない。マイナス面の方が多いかと思います。よく言われる加盟国間での一律事業認可・免許制度である「単一パスポート」の適用がなされなくなるから、コストは大きくなります。
メイ首相は離脱反対派です。離脱後、対外貿易省と離脱担当省と対ヨーロッパ交渉省の新設を離脱派の人たちに任せています。今、国内の世論はどのような形で離脱していくのか、ということで分裂していますが、離脱によるメリットがないことになると思います。そのときには離脱回避ということになる可能性は高い。
いずれにせよ、来年3月にはオランダで総選挙があって、5月にフランスの大統領選挙、ドイツの連邦議会選挙がおそらく9月でしょう。ですから、10月以降イギリスの動きが本格的になるのではないかと思います。それまでEU各国は模様眺めとなります。

(一部 抜粋)




2016年12月号 目次

 

風のように鳥のように(第84回)
はからずも健康的/岸本葉子(エッセイスト)

インタビュー
今、世界で何が起こっているのか/渡邊啓貴(東京外国語大学国際関係研究所所長)

追跡原子力
・情報を正確に理解するために
・高レベル放射性廃棄物は、なぜ地下に処分するのか

中東万華鏡(第9回)
沖縄と中東世界/保坂修司(一般財団法人日本エネルギー経済研究所 研究理事・中東研究センター 副センター長)

おもろいでっせ!モノづくり(第48回)
大阪万博に医工連携を生かそうと思います/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)

客観的に冷静に(第49回)
寺田寅彦随想 その20/有馬朗人(武蔵学園長)

笑いは万薬の長(第29回)
放射線教育と性教育の共通点/宇野賀津子(公益財団法人ルイ・パストゥール医学研究センターインターフェロン・生体防御研究室長)

交差点

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