月刊誌 原子力文化 インタビュー

原子力文化2018年5月号 インタビュー(抜粋)

2050年、自動車はどうなる?
― 電気自動車分野のCO2抑制に原子力も貢献 ―

「化石燃料を使わず、環境にやさしい」ことで注目を集める電気自動車を中心とした次世代自動車。 エコカーと呼ばれるこれらは価格が高い印象ですが、今後一家に1台という時代は来るのでしょうか。 次世代自動車の展望と課題について、早稲田大学名誉教授・大聖泰弘さんにお話を伺いました。

早稲田大学名誉教授
大聖 泰弘  氏 (だいしょう・やすひろ)

1976年早稲田大学大学院理工学研究科博士課程修了。1985年より同大学理工学部教授。2014~2016年度に同大学研究院次世代自動車研究機構長を務め、2017年4月から同機構特任研究教授兼名誉教授。
研究分野は、エンジンの燃焼、排気浄化、高効率化、新燃料の利用技術、電気自動車、ハイブリッド車、燃料電池車の製作と性能評価。企業60社と学内外の研究者とともに早大モビリティ研究会を組織し、次世代自動車の技術課題やクルマ社会のあり方について研究している。

―― 最近「脱石油」や「低炭素化」という言葉が聞かれます。自動車業界が進めている取り組みを教えてください。

パリ協定対応における地球温暖化対策や省エネルギー対策のために、国として自動車の電動化を進めようという動きが活発になっています。
パリ協定には3つの目標があります。地球の温暖化を産業革命前から2℃以内に抑制するため、各国で2030年におけるCO2を中心とした温暖化効果ガスの低減目標を明示すること、2050年までにグローバルに50%減らすこと、さらに2100年には、ほぼゼロにすることとしています。
2050年では、先進国の削減目標は80%です。新興国や途上国は大幅に減らすことが難しいので、全体で50%とするために、日本をはじめ先進国は80%低減となっています。
日本は2030年度に2013年度比で26%の削減を目標とし、各部門別に目標を決め、業務・その他と家庭の部門ではそれぞれ約40%、運輸部門では約28%、エネルギー転換部門で約28%の削減の目標が掲げられており、これらの取り組みを促進するためにこれから非常に重要な時期を迎えるのではないかと思います。
運輸では86%のCO2が自動車から出ています。ですから、運輸部門の対策は自動車の対策が中心となるのです。
そのためには従来のガソリン車やディーゼル車の燃費を改善していくことが重要ですが、乗用車の燃費基準が2020年度に設定され、2027年頃に改訂される見通しです。重量車に関しても現行基準から2025年には新しい燃費基準が設定されたところです。
そして、現在のガソリン車やディーゼル車の燃費を向上していくと同時に、次世代自動車と言われるハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車、これらをさらに普及させていく必要があります。

 

―― はい。

乗用車用のガソリンエンジンとディーゼルエンジンを対象にした国のプロジェクトがあり、今の正味熱効率をさらに改善して、ともに50%くらいに改善する、という目標を掲げて進行中です。これは2030年くらいまでには実験段階から実用化へと進展するものと予想されますが、このようなエンジン自体の改善が一つ目の重要な課題です。
その次に、このような高効率のエンジンを使ってハイブリッドを高効率化するという取り組みもあります。ハイブリッド車も日本国内ではかなり増えてきています。あとは家庭などで充電可能なプラグインハイブリッド車もある程度普及するのではないか、と考えています。
プラグインハイブリッド車は、充電した分を電気自動車として走ることができるハイブリッド車なので、充電ステーションがない場合でも電池分の電力を使った後はハイブリッド車として運転できる上、発電して充電しながら走る、そういう利便性があります。また、電気自動車の4分の1~5分の1くらいのバッテリー容量で済みます。まだバッテリーのコストが高い状況なので、コスト面での利便性もあります。
電気自動車も次世代自動車の有力候補ですが、充電インフラの充実が必要です。現在、充電ステーション、特に急速充電ステーションが国内に7000か所くらいありますが、それではまだ不十分だというユーザーの声もあり、増やしていく必要があります。
最近ではリチウムイオンバッテリーが高性能になってきているため、一回の充電で走れる距離が300~400キロくらいになってきています。電池の性能に関しては世界で日本が一番リードしていると思いますが、まだコストが割高なため、国からの購入助成があります。

 

(一部 抜粋)




2018年5月号 目次

 

風のように鳥のように(第101回)
体にいいのは/岸本葉子(エッセイスト)

インタビュー
2050年、自動車はどうなる?/大聖泰弘(早稲田大学名誉教授)

追跡原子力
国と企業が協働して取り組む

中東万華鏡(第26回)
雨降らしの石(2)/保坂修司(一般財団法人日本エネルギー経済研究所 研究理事・中東研究センター 副センター長)

おもろいでっせ!モノづくり(第65回)
青木さん。あんたは七色仮面ですか!/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)

地下環境学への誘い(第5回)
地層処分と地下水/吉田英一(名古屋大学博物館教授〈環境地質学〉同大学院環境学研究科教授兼任)

笑いは万薬の長(第46回)
「我々は福島から何を学んだか?」シンポジウム/宇野賀津子(公益財団法人ルイ・パストゥール医学研究センターインターフェロン・生体防御研究室長)

交差点

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