月刊誌 原子力文化 インタビュー

原子力文化2015年6月号 インタビュー(抜粋)

日本人の責任感と使命感
― 「本義」というものを見失わない男たちがいた ―

全国の電力会社の社員の子弟に読んで欲しい本……。
東京電力・福島第一原子力発電所の元所長の吉田昌郎さんをはじめ、多くの所員にインタビューした門田隆将さん。
門田さんは今春、児童向けの本「吉田昌郎と福島フィフティ」を上梓しました。門田さんはなぜ福島の事故を取材しようと思いがいたったのか、お話を伺いました。

ジャーナリスト、作家
門田 隆将  氏 (かどた・りゅうしょう)

1958年 高知県生まれ。大学卒業後、新潮社に入社。「週刊新潮」編集部に配属され、以後、記者、デスク、次長、副部長を経て2008年4月に独立。デスク時代から「門田隆将」のペンネームで作品を発表。独立第1作は、光市母子殺害事件の9年間を描いた『なぜ君は絶望と闘えたのか』。以後、精力的に作品を発表するが、福島第一原子力発電所事故時の所長・吉田昌郎のインタビューを収めた『死の淵を見た男』は大きな社会的反響を呼んだ。
その他『太平洋戦争 最後の証言』など著書多数。

―― 事故について、なぜ取材をされようと思ったのですか。

3月12日以降、福島第一原子力発電所の報道が圧倒的になり、全電源喪失、放射線量の増加、原子炉への注水不能…と、マスコミが危機的状況を刻々と伝えていきました。
普通の人はそのニュースを、言葉通りに聞いて、見ているかもしれませんが、私は長年の習性で、常にその場に身を置いて想像しています。
全電源喪失というのは真っ暗闇で、その上、原子炉を冷却する手段も失われている。
暗闇の中、手動で注水して冷却するために、懐中電灯を持ってバルブを開けるべく向かっているのだろうが、津波で水浸しで、放射線量が高いところに行ける人間とはどんな人なのか。どういう人間が命じて、どういう人間が行なったのか、というすさまじい光景が目に浮かんできます。
私は戦争ノンフィクションも数多く書いているので、玉砕の戦場からの生還者もたくさん取材しています。その時も、いつも証言者が語る“現場”に一緒に身を置いてお話をお聞きします。私は、原発事故が起こってから、一体どういう家に育って、どういう仕事の使命感、責任感をもった人間ならこれができるのか、を知りたいと思いました。
私は四半世紀も「週刊新潮」にいて、そのうち18年間はデスクで、700本以上の特集や、原子力の記事も書いています。
これをもし書くとしたら自分しかいないのではないか、と思っていました。

―― どのように取材を始めたのですか。

当時、福島第一原子力発電所の所長だった吉田昌郎さんを、どう説得してインタビューするか。それをまず考えました。
吉田所長に私自身が会うことができないので、それなら第三者を通じて彼を説得するしか方法はありません。それで、彼が恩義に感じている人間、彼に影響力を与える人間、それは誰かを考えました。これは、幼なじみの場合もあるし、恩師、親、先輩や、上司、同僚の場合もある。
そんな、ありとあらゆる人たちを回って、その人たちを説得して、吉田さんに会えるように、もっていってもらいました。

手紙と本を送り、インタビューの実現に
1年3か月かかった

―― 吉田さんのインタビューをするために、何人の人に会われたのですか。

2、30人は会っています。10本くらいのルートで、そのうちの1本がズドンといったのです。私の手紙と本も持っていってくれてインタビューが実現したのですが、1年3か月かかりました。
2012年の7月6日に吉田さんが、わざわざ私の事務所を訪ねてきてくれました。食道がんの手術を終えた吉田さんが外出を許されたのは6月下旬からです。しかし、それは7月26日に日本橋で、脳内出血で倒れて終わってしまう。
つまり、それは人生で許された“自由にできた最後の一か月”だったのです。だから、そのときに私の事務所を吉田さんが訪ねてきてくれたことは奇跡だったと思います。

(一部 抜粋)




2015年6月号 目次

 

風のように鳥のように(第66回)
体の歪みを正すには/岸本葉子(エッセイスト)

インタビュー
日本人の責任感と使命感/門田隆将(ジャーナリスト、作家)

追跡原子力
世界で運転している原子力発電所は431基

いま伝えておきたいこと(第42回)
未来を見据えて/高嶋哲夫(作家)

おもろいでっせ!モノづくり(第30回)
品質がいいだけで売れる時代ではありません/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)

客観的に冷静に(第32回)
寺田寅彦随想 その3/有馬朗人(武蔵学園長)

笑いは万薬の長(第11回)
たかが左手、されど左手/宇野賀津子(公益財団法人ルイ・パストゥール医学研究センターインターフェロン・生体防御研究室長)

交差点

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