月刊誌 原子力文化 インタビュー

原子力文化2019年11月号 インタビュー(抜粋)

地球温暖化問題に真剣に取り組むために
― 一人ひとりがリテラシーを高めることが必要 ―

日本では大型の台風が猛威を振るい、ヨーロッパでは40℃を超すような酷暑が、アメリカでは山火事が頻繁に起きています。 世界中で異常気象が起きていることに、もっと私たち一人ひとりが危機感を持つべきとおっしゃる東京大学公共政策大学院教授の有馬純さんにお話を伺いました。  

東京大学公共政策大学院教授
有馬 純  氏 (ありま・じゅん)

1959年 神奈川県生まれ。1982年東京大学経済学部卒業後、通商産業省(現経済産業省)入省。2002年に国際エネルギー機関(IEA)国別審査課長、2006年に資源エネルギー庁国際課長、同参事官等を経て2008年に大臣官房審議官地球環境問題担当。2011年に日本貿易振興機構(JETRO)ロンドン事務所長兼地球環境問題特別調査員を経て、2015年8月より現職。主な著書に『トランプ・リスク―米国第一主義と地球温暖化』、『精神論抜きの地球温暖化対策―パリ協定とその後』(エネルギーフォーラム)など。

―― 改めて、パリ協定とは?

1997年に合意された京都議定書は、先進国だけが法的拘束力のある削減目標を掲げ、中国やインドのような途上国は、一切義務を負わない枠組みでした。
パリ協定は、地球温暖化防止のための国際的な枠組みで、先進国、途上国を問わず、各国の実情に応じて温室効果ガスを削減あるいは抑制する目標を設定して、その目標の進捗状況について報告をし、レビューを受けるとともに定期的にその目標を見直すということになっています。他方で、パリ協定では、地球全体の産業革命以降の温度上昇を1.5℃~2℃以内に抑えるという目標が掲げられていて、これは文字で書くことは簡単ですが、実現するのは非常に難しい。
例えば、昨年10月に発表されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の『1.5℃特別報告書』を見ると、2030年までに現在と比較して約40%、世界の温室効果ガスの排出量を下げなければならないことになっています。パリ協定の下で各国が出した目標値を見ると、世界最大の排出国である中国の目標は、2030年でようやくピークアウトする内容になっています。パリ協定で設定された温度目標と現実の間に非常に大きな差があることが課題です。

 

―― 各国でレビューして、見直していくと思いますが……。

5年おきに見直すことになっていますが、その見直しがパリ協定で求める1.5℃や2℃のトラックに乗るような大幅な見直しになるかというと、私はそんなに楽観はしていません。
というのは、これから排出量が大量に増えてくるのは途上国です。途上国は一人当たりの所得が低く、これをもっと上げたい。それによって飢餓あるいは貧困を撲滅したいし、教育もヘルスケアも充実したい。彼らにとっての発展への願望は多岐にわたります。
そういった発展への願望は、確固たる経済成長によって裏打ちされなければならないのですが、そのためには安価で安定的なエネルギー供給が必要です。
幸か不幸か、世界中で最も潤沢に存在するエネルギー源は石炭で、この石炭がこれからエネルギー需要の急増するアジア地域に非常に潤沢に存在します。温暖化防止というパリ協定の目的だけを根拠に、国内に存在し安価なエネルギー供給を可能にする石炭利用を途上国が簡単にやめるとは思えません。国連の持続可能開発目標(SDGs)は17あり、気候変動はその一つですが、貧しい途上国にとって至高の目的ではないからです。
世界は脱炭素化に向かって進んでいくと思いますが、パリ協定が想定するようなスピードで1.5℃、2℃の目標が実現されるかというと、悲観的にならざるを得ません。

 

 

(一部 抜粋)






2019年11月号 目次

 

風のように鳥のように(第119回)
やかんの使い方/岸本葉子(エッセイスト)

インタビュー
地球温暖化問題に真剣に取り組むために/有馬純(東京大学公共政策大学院教授)

追跡原子力
◇TMI1号機が45年間の運転を終了
◇重粒子線治療に海外からの患者が増加中

中東万華鏡(第44回)
モロヘイヤの話/保坂修司(一般財団法人日本エネルギー経済研究所 研究理事・中東研究センター 副センター長)

おもろいでっせ!モノづくり(第83回)
ナンコーさんの講演会に行ってきました/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)

ドイツでは、今(第17回)
世界の覇権は誰の手に?/川口マーン惠美(作家)

温新知故(第8回)
恐竜が生きた時代の気温を測る!/斉藤孝次(科学ジャーナリスト)

交差点





 

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