原子力文化2020年1月号 インタビュー(抜粋)
世界は確実によくなっている!?
― あなたが思うほど世界はドラマチックではない ―
いくらかでも電気が使える人は、世界にどのくらいいるでしょう?
A:20%、B:50%、C:80%。(答えは10ページにあります)。
こんな質問が2018年に出版された『FACTFULNESS』という本(翻訳は2019年)に、13問並んでいます。
著者のハンス・ロスリングは、医師、公衆衛生の専門家でWHO、ユニセフのアドバイザー。国境なき医師団をスウェーデンで立ち上げるなどして、2017年に亡くなっています。彼は、最後の著書『FACTFULNESS』で 「なぜ人々は世界を誤解しているか」を説き起こしています。翻訳者の関美和氏に、その考え方と実践について伺いました。
関 美和 氏 (せき・みわ)
慶應義塾大学文学部・法学部卒業。電通、スミス・バーニー勤務の後、ハーバード・ビジネス・スクールでMBA取得。モルガン・スタンレー投資銀行を経て、クレイ・フィンレイ投資顧問東京支店長を務める。現在、アジア女子大学支援財団の理事。翻訳した『ゼロ・トゥー・ワン』で2015年のビジネス書大賞受賞。主な翻訳書に『アイデアの99%』、『ハーバード式「超」効率仕事術』、『FACTFULNESS』(日経BP社)などがある。
―― まず、この本の全体像をご紹介ください。
著者のハンス・ロスリングは、自分が見ている世界と、多数の人が見ている世界が違うらしい、とあるとき気がつきます。
すごく長いスパンでデータを見れば、世界にはたくさんよくなっていることがあります。
もちろん、悲惨な状況は残っているにしろ、貧困や、自然災害で亡くなる人も減っている。人口は増えているけれども、それも永久に増え続けるのではない。いろいろ悪いところがありながらも、世界はよくなっているのではないか。データを素直に見れば、そうであるとロスリングは考えます。
でも、世の中の多くの人はそう思っていないらしい。それは普通の一般の人だけではなくて、学歴もあり、知識もあり、いろいろな情報に恵まれている人でさえ勘違いしているようである、と。
それはなぜなのでしょうか。
著者は、人間がそもそも持っている傾向を、10の本能に分けて、自分の失敗談や卑近な例を交えて、「人というのはみんなこういう生まれながらの傾向があるね」と。
それを知って自分の先入観や偏見などを少しでも正すことによって、世界を正しく見ることができるようになるのではないか、という希望を持って、ハンスさんが書かれた本だと思います。
―― 10の本能の話の一つひとつにインパクトがありますね。
例えば、第1章は「分断本能」を抑えるということで、所得と教育の問題が書かれています。「低所得国に暮らす女子の何割が、初等教育を修了するでしょう?」という問いに、まず頭に浮かんだことは、2014年、17歳のときにノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイという少女が、パキスタンの女性教育の現状を告発したことです。
本当にそんなにひどいのか、そしてたぶん、教育の機会を奪われている人が多数いるのだろうと思ったけれども、正解は世界で6割の女子が初等教育を修了していました。
また、関連した第7章の質問の「学校教育の平均年数」でも、男子の10年に対して、女子が9年と、わずかな差でしかないのにはびっくりしました。
第4章では「恐怖本能」を抑えるということで、福島第一原子力発電所の事故の話が出ていました。
あそこは私たちもとても気を遣ったところです。実は、英語ではもっとズバッと書いていたのです。
(一部 抜粋)
2020年1月号 目次
風のように鳥のように(第121回)
ネットが不調の三か月/岸本葉子(エッセイスト)
インタビュー
世界は確実によくなっている!?/関美和(翻訳家・杏林大学外国語学部准教授)
追跡原子力
◇ミイラを「科学する」最新技術
中東万華鏡(第46回)
伊東忠太とイスラーム/保坂修司(一般財団法人日本エネルギー経済研究所 中東研究センター長・研究理事)
おもろいでっせ!モノづくり(第85回)
六周年迎えましたで、医療コンソーシアム/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)
ドイツでは、今(第19回)
移民・難民問題は対岸の火事?/川口マーン惠美(作家)
温新知故(第10回)
災害痕跡データベースを減災に活用/斉藤孝次(科学ジャーナリスト)
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