月刊誌 原子力文化 インタビュー

原子力文化2020年3月号 インタビュー(抜粋)

震災から9年。今、福島は
― 未来の福島を支える人材育成を ―

福島第一原子力発電所の事故から九年。震災時から、福島の風評被害をなくすため、講演会やシンポジウムを開催し、福島第一原子力発電所の廃炉の現場を取材・発信し続けてきた開沼さん。
今、福島の復興に必要なものを改めてお聞きしました。    

立命館大学衣笠総合研究機構准教授
開沼 博  氏 (かいぬま・ひろし)

1984年 福島県いわき市生まれ。社会学者。東京大学文学部卒、同大学院学際情報学府博士課程単位取得満期退学。現在、福島県アーカイブ拠点施設調査研究・研修検討委員会委員や、ふくしまFM番組審議会委員、東日本国際大学客員教授、経済産業省汚染水処理対策委員会多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会委員など、福島第一原子力発電所を巡る地域開発を論じ、人材育成に関わる。主な著書に『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』があり、毎日出版文化賞などを受賞。その他、『福島第一原発廃炉図鑑』『はじめての福島学』『漂白される社会』『フクシマの正義 「日本の変わらなさ」との闘い』など著書多数。

―― 福島第一原子力発電所の事故から九年が経ちました。現在の福島の状況についてお聞かせください。

課題は5つあります。
一つ目は、日本中の問題でもある少子高齢化が進み、医療福祉がうまく機能しなくなったことです。福島では、これまで地域を支えてきた産業が機能しなくなっていることで、それがより浮き彫りになっています。
例えば、要介護者が増え、介護保険料が高い自治体が福島県内で出ています。65歳以上の人たちの保険料について、直近では2018~2020年度までの額が決まっていますが、全国の自治体の中で最も高額な介護保険料になっているのが葛尾村です。さらに、トップテンに双葉町、大熊町、浪江町、飯舘村、川内村、三島町が入っています。三島町を除いて、原発事故の避難指示を経験した地域です。介護を必要とする人が急増し、それをサポートする医療機関の整備や医療福祉の従事者が足りない。これらも事故の影響によるものと言わざるを得ないと思います。
2つ目が風評や偏見・差別の問題です。風評被害や偏見の課題があること、それに苦しんでいる人がいるという実態を報道してこなかった結果が、昨年、韓国における福島県の水産物輸入禁止措置などに明確に露呈しています。むしろメディアが危険性を煽る、偏った物の見方を流布することに加担し、状況を悪化させたことも指摘せざるを得ません。
3つ目が、ポスト復興の問題です。復興庁の設置延期は決まりましたが、では復興をどのように進めていくのか、これまでやってきたことを土台にどう築いていくのかという議論は、特に住民間で不十分です。
行政が主となった復興が終わり、予算や組織規模は大幅に縮小されます。いかに復興をソフトランディングさせていくのか、もしくは別の形でさまざまなことで困っている人を社会的に包摂していくのか、考えるべき時期にきています。
4つ目が原発周辺地域の復興が本格化していることに伴う課題です。
当初12の市町村に避難指示が出されましたが、未だ全域避難が続いていた双葉町でも、3月4日にJR常磐線双葉駅周辺などで、避難指示が一部解除されます。一歩ずつ前に進んできた成果です。
震災から9年経って高齢者の中には亡くなった方もいますし、働く世代は新しい仕事を見つけ、別の場所で居住地を定着させてしまった方もいます。学校・人間関係の思い出が、もはや原発周辺地域にはないという世代も育ってきています。この街をどう復興させるかは、単純な自然災害とは違う複雑な問題があるのかな、と思います。

 

 

(一部 抜粋)





2020年3月号 目次

 

風のように鳥のように(第123回)
再利用の効果/岸本葉子(エッセイスト)

インタビュー
震災から九年。今、福島は/開沼博(立命館大学衣笠総合研究機構准教授)

特別寄稿
◇トモダチ作戦とはなんだったのか/大竹直樹(産経新聞東京本社社会部)

中東万華鏡(第48回)
パンとコメ―二つの「命」/保坂修司(一般財団法人日本エネルギー経済研究所 中東研究センター長・研究理事)

おもろいでっせ!モノづくり(第87回)
VWはフォルクスワーゲンやありません/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)

ドイツでは、今(第21回)
自衛隊の音楽まつり/川口マーン惠美(作家)

温新知故(第12回)
古墳「鉄剣」のX線調査で古代史解明/斉藤孝次(科学ジャーナリスト)

交差点 コラム
放射線でマスクを強化


 

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