月刊誌 原子力文化 インタビュー

原子力文化2020年10月号 インタビュー(抜粋)

英米のエネルギー安全保障に原子力は欠かせない
― 日本では地方の疲弊も防ぐ!? ―

コロナ禍で経済が停滞し、電気の使用量が減ったのに、国によっては電気料金が上がる?
そんな状況が起こり得るのです。その解は、電源の構成にあります。電気をつくる発電所には、石炭、天然ガス、原子力、再生可能エネルギーなどがあります。各国の組み合わせはどうなっているのでしょうか。
常葉大学教授の山本隆三さんにお伺いしました。

常葉大学経営学部教授
山本 隆三  氏 (やまもと・りゅうぞう)

1951年 香川県生まれ。京都大学工学部卒業後、住友商事に入社。石炭部副部長、地球環境部長などを経て、2013年より現職。NPO法人国際環境経済研究所所長も務めている。『脱原発は可能か』『電力不足が招く成長の限界』など著書多数。

―― 今、世界のエネルギーの現状は。

コロナ禍でわかったことは、再生可能エネルギーには、やはりリスクがあるということです。 それはどういうことかというと、コロナ禍のためにヨーロッパもアメリカでも経済活動が停滞し、ロックダウン直後に電力需要が大きく落ち込みました。イタリアが一番ひどくて30%、イギリスも24%と3割近く需要が落ちました。問題は、電力需要の落ち込みに合わせ供給力が調整できないということです。
イギリスは3年前の冬、電力の供給不足で停電寸前まで追い込まれて大騒ぎになりましたが、今度は供給過剰で停電するのではないか、という話が出てきたのです。
なぜ供給過剰になるかというと、イギリスの送電管理者のナショナル・グリッド(NG)は、全国にある小型の再エネ設備の出力制御の権限を保有していなかったからです。
ロックダウンにより今年の5月8日の休日に電力需要が大きく落ちると考えたNGは、小規模再エネ設備が引き起こす供給過剰による停電を心配することになります。5月8日の1週間前に突然NGが地方の送電管理者に命じれば、制御権限のない再エネの電気を止めることができるという管理規則を作り、政府の許可を取ってしまいました。停止を命じられた設備への補填はなしの規則です。
一方、前日の指示により発電を自主的に止めてくれた再エネ事業者にはお金を払う新制度を作り、小規模再エネ事業者に自主的な参加を促す提案を行ないました。
強制的に止められるよりもいいと170事業者が応じ、240万キロワットの設備が制御対象になることにより、停電の危機を乗り越えたのですが、再エネ事業者には電気料金から補填が行なわれます。
コロナで電力需要が落ち込んだため、NGの送電管理費は今年500億円くらい増え、総額2000億円くらいになってしまう。増えた500億円には、自主的に止めた再エネ事業者に支払う補填金も入っているのです。

 

―― そうなのですね。

ドイツでも今年前半の発電量に占める再エネ比率が半分を超えたと言って大騒ぎになっているのですが、これも電力需要が落ちたからです。
ドイツでは電力需要が落ちた結果、再エネ事業者に払う固定価格買取制度の賦課金が不足する問題が出てきました。日本もそうですが、賦課金は発電量を予想して、それに単価を掛けて必要な総額を出しているのです。
ところが、発電量が落ちて収入額が減るはずなのに、再エネからの電気は減っていない。ということは、再エネに支払う額は減りません。 
再エネを導入するのもいいですが、需要量に合わせて供給量を調整できないリスクがあるため電気料金が上がってしまう可能性があります。

 

 

(一部 抜粋)





2020年10月号 目次

 

風のように鳥のように(第130回)
それでも運動/岸本葉子(エッセイスト)

インタビュー
英米のエネルギー安全保障に原子力は欠かせない/山本 隆三(常葉大学経営学部教授)

特別寄稿
コロナ下の酷暑を乗り切れたが…/北村 行孝(科学ジャーナリスト)

中東万華鏡(第55回)
不死鳥伝説(2)/保坂修司(一般財団法人日本エネルギー経済研究所 理事・中東研究センター長)

おもろいでっせ!モノづくり(第94回)
それですわとベニオフさんは言ったんです/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)

ドイツでは、今(第28回)
コロナ禍でのほのかな希望/川口マーン惠美(作家)

温新知故(第19回)
「ウラン壊変」で洞窟壁画の年代を特定/斉藤孝次(科学ジャーナリスト)

交差点


 

ページの先頭へ戻る