月刊誌 原子力文化 インタビュー

原子力文化2021年08月号 インタビュー(抜粋)

今、世界はカーボンニュートラル祭り
― 温暖化対応は経済成長の制約やコストにならないように ―

もう一つは、希望の道です。それは決意と、持続可能な解決策の道でもあります。この道を進めば、さらに多くの化石燃料は本来あるべき場所、すなわち地中に留まり、私たちは2050年にカーボンニュートラルの実現に向けて歩を進めることになります……。
これは2019年国連気候変動枠組条約第25回締約国会議(COP25)開会式におけるグテーレス国連事務総長の挨拶です。
カーボンニュートラルという高い目標を実行するには、どのような戦略を立てればよいのでしょうか。また実現は可能なのでしょうか。長くCOPにかかわってらっしゃった有馬純さんに伺います。

東京大学公共政策大学院特任教授
有馬 純  氏 (ありま・じゅん)

1959年生まれ。1982年東京大学経済学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)入省。国際エネルギー機関国別審査課長、資源エネルギー庁国際課長、国際交渉担当参事官、大臣官房地球環境担当審議官、日本貿易振興機構ロンドン事務所長兼経済産業省地球環境問題特別調査員を経て、2015年8月より東京大学公共政策大学院教授。国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)にはこれまで12回参加。主な著書に『精神論抜きの地球温暖化対策―パリ協定とその後』、『地球温暖化交渉の真実―国益をかけた経済戦争』などがある。

―― 先生は今「世界はさながら2050年カーボンニュートラル祭り」という表現をなさっていますが。

パリ協定は、2020年以降の温暖化対策の国際的な枠組みで、約200か国が合意成立しています。その中に「産業革命以降の温度上昇を1.5℃から2℃に抑えましょう」という目標があります。達成のためには「世界全体で温室効果ガスの排出量と吸収量のバランスを今世紀後半に達成しましょう」という条項があります。
ところが、スウェーデンのグレタ・トゥーンベリさんをはじめとする若手の環境活動家が「それでは甘い。2℃ではなくて1.5℃、しかもかなり高い確率で達成しなければいけない」というような主張をしています。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が2018年に発表した「1.5℃特別報告書」では「1.5℃を達成するためには、2050年頃に世界全体でネットゼロエミッションを達成してないといけない。そのためには2030年までに世界全体で現状から45%くらい温室効果ガスを削減しなければいけない」、というような数字が出されています。
国連のグテーレス事務総長は世界各国に、まず2050年ネットゼロエミッションを目標として表明すること、それと整合的な形で各国がパリ協定に基づいて出した目標値を大幅に引き上げることを求めています。
今年の1月時点で120を超える国が「2050年にネットゼロエミッション」という目標を掲げていますが、確たるアクションプログラムで裏付けられているものはほとんどありません。
ある意味、流行に乗っかった「カーボンニュートラル祭り」のようなものです。
2050年というと、30年以上先の話で、今使えない技術も使えるようになるかもしれない。水素や二酸化炭素回収・貯留(CCS)、次世代原子炉なども使うかもしれない。2050年ネットゼロエミッションは方向性として目指していくのはよいと思います。 ただ、日本でも、アメリカでも、ヨーロッパでも「温暖化防止のために、いくらでもコストを負担します」という状態ではありません。ましてや途上国においては言うまでもありません。これから地球のエネルギー需要、温室効果ガスの増分の多くは、アジアの途上国によるものです。
まだ所得水準の低いアジアの途上国に「温暖化防止のために高いエネルギーでも買ってください」というのは全く通用しないでしょう。
今年4月の気候変動サミットでも先進国は軒並み2030年の目標を引き上げましたが、中国は2030年ピークアウトという目標を動かしませんでした。逆にいえば、2030年までは排出量が増え続けるのです。インドに至っては、目標を見る限り、2030年以降も排出量は増え続けます。
ですから、1.5℃目標を達成するために、あと10年間で世界の排出量を45%削減というのは、まず無理だと思います。

 

(一部 抜粋)





2021年8月号 目次

 

風のように鳥のように(第140回)
オンラインのジム/岸本葉子(エッセイスト)

インタビュー
今、世界はカーボンニュートラル祭り/有馬純(東京大学公共政策大学院特任教授)

世界を見渡せば(第8回)
「BTSと経済発展」/関 美和(翻訳家・杏林大学外国語学部准教授)

特別寄稿
近年の原子力発電の動向を振り返る/木村謙仁(日本エネルギー経済研究所主任研究員)

中東万華鏡(第65回)
アラビア馬(三)/保坂修司(一般財団法人日本エネルギー経済研究所 理事・中東研究センター長)

おもろいでっせ!モノづくり(第104回)
変化に対応できる人材が必要です/青木豊彦(株式会社アオキ取締役会長)

ドイツでは、今(第38回)
ドイツの総選挙と温暖化対策/川口マーン惠美(作家)

温新知故(第29回)
榛名山火砕流に「甲を着た古墳人」!/斉藤孝次(科学ジャーナリスト)

交差点


 

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