日本原子力文化財団ホームへ戻る

資源小国・島国国家としての選択

岡山 康広 氏

ATOM Works株式会社 代表取締役

原子力産業と地域・産業振興を考える会 理事

六ヶ所村産業協議会 理事

2019年6月13日、日本のタンカーがオマーン沖で砲撃を受けた。幸い負傷者は出なかったとの事だが、安倍首相がイラン訪問中に起きた事件で、まだ記憶にも新しいことと思う。この事件を知り、改めて痛感したのは、わが国のエネルギーセキュリティの脆弱性と、危機感の欠如である。調べてみると、日本の原油中東依存度は2017年度で87.3%であり、日本が二度経験したオイルショック時よりも依存度が上昇していることに驚愕した。東日本大震災後の2012年時点、30万tクラスタンカー換算でホルムズ海峡を約500往復/年、その時の依存度が83.2%であることからも、今現在の依存度が如何に異常であるかは想像に難くない。またエネルギー自給率が10%を下回っている事も極めて深刻な事態である。国が国として成立するためには、水・食料・エネルギーを安定的に安価に確保する事が極めて重要であり、それを他国に依存し自らの努力を放棄する事は、日本の未来への成長発展を諦め、2000年以上脈々と受け継がれてきた歴史と伝統を冒涜し、我々の子孫に取り返しのつかないツケを廻す事になりはしないか。今の日本には、それは国や政府、電力会社がやるべき事、我々はあくまでその恩恵を享受する側、国民のために責任を持って安心(科学的に安全、ではなく)できる資源を確保し、安全に運用してください、という他力本願意識を感じ強い憤りを覚える。論理的・科学的知見に立って冷静にメリット・デメリットを自分なりに解釈して決断するという、成熟した文明人として当たり前の事を放棄してはいまいか。無関係を装い安全地帯から、最前線で戦っている現場の技術者や立地地域住民に対して顔の見えない非難の目を向ける。紛れも無いステークホルダーであり当事者であるにも関わらず、である。ビジネスの観点から申し上げると、事業活動においてノーリスクハイリターンなど存在しない。みなリスクを現実のものとしっかり認識し、そのリスクを最小化するために知恵を絞り、対策を講じ、それでもゼロにはならないリスクを内に抱えて決断を下し実行する。この蔓延する、「今なんとかなっているのだから大丈夫、原発はなんとなく危ないからゼロにしたほうが良いよね」という国全体に広まる誤解・錯覚を変えていくには途方も無い時間と労力を要すると思うが、やらねばならない。もちろん福島第一原発の事故を起した事業者や他電力事業者は率先してその責務を果たすべきであるし、私たち「原子力ムラ」と呼ばれる立地地域住民もその責務を負っていると認識している。日本がこれからの国際社会において今と変わらず技術立国・輸出産業で一定の地位を確保し、また危機的状況にある地球環境に対して責任を持って取り組んでいくSDGs等の活動の先進国として世界をリードしていくためには、論理的・合理的視点に立って真のエネルギーの3E+Sを追求していかねばならないと考える。

私はたまたま立地地域に生まれ育ち、物心ついた時にはすでに原子力関連施設が村にあった。高校、大学生活は村外で送り、社会人として故郷に戻ったときには社業の経営戦略の中核にはすでに原子力関連施設があった。わが村の立地に関わる経緯については伝聞でしかないが、これまで事業に関わってきた経験から純然たる事実であると自信を持って断言できることが二つある。一つ目は、わが村や青森県はこれまで経済を支えてきた一次産業に加えて、原子力産業を誘致した事により、さらなる経済発展を実現したことである。これは統計が証明しており、特に我が村は立地前後において出稼ぎ率の著しい低下が顕著である。家族が一年を通して離れること無く地元で食っていけることの恩恵は計り知れない。二つ目は、原子燃料サイクルを確立し、事業を進める事によって日本のエネルギーセキュリティに大きく貢献できること、である。そしてここからは私見だが、我々立地地域住民は国策の犠牲になっているという被害者意識や、受け入れてあげているという上から目線は皆無であり、むしろ誇りと使命感を持って国策に協力していると自負している。現在を決して疎かにする事無く、今後ますます激化していく国際競争に日本が負けることなく、未来に渡って先進国、豊かで明るい幸せな国であり続けるためにはエネルギーの安定確保が大前提であり、再生可能エネルギーの推進と原子力発電を含めた原子燃料サイクルのベストミックスが必要不可欠であると確信している。もっと簡単に言うと、「勿体無いの精神」で使える物は再利用して最後まで使い、限りある資源を節約して将来のために備え、次の時代への投資をしっかりとしていこう、である。そしてその活動を通じて経済が潤い、地域に活力が生まれ、若者や技術者が集まり夢を語り合い、新たな産業や文化が生まれ次の世代へと受け継がれていく。エネルギーを真剣に考える事は、自分と家族の未来、地域の未来を考えていくことと同義で、決して他人事ではないということを肝に銘じ、当事者意識を強く持ってこれからも自らの道を歩み続けていくことを改めて決意した次第である。

特別寄稿トップページへ戻る