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イデオロギー論から脱却し、公平・正確な議論を

武内 貴年 氏

福井県原子力平和利用協議会 敦賀支部 支部長

私が今回この原稿執筆の依頼を頂いた前日に、ホルムズ海峡で、日本タンカーが砲弾を受ける事故が発生した。日本はこの地域から石油約80%、天然ガス約30%を輸入している。ご存知のように日本のエネルギー自給率は現時点で約9%で、その低い自給率の中、日本は世界第4位のエネルギー消費国である。この状況で日本が平和と経済発展が出来たのは、弛まない外交努力の成果だと私は思っている。しかし過去に何度もこのホルムズ海峡の危機があり、その都度、エネルギー供給の不安を日本は経験してきた。今の日本では福島の原子力発電所の事故の影響があり、国民の原子力に対する不安は根強く、原子力政策を前へ進める事が容易ではない。その反面、エネルギーの供給には海外への依存度が高い。また地球環境を考慮すればCO2の削減を迫られ、火力発電、特に石炭火力に関しては、厳しい状況になっている。
そのような中、日本では再生可能エネルギーが注目され、この分野に期待をされる国民が増えているのも現状である。私は、太陽光発電や風力発電、地熱発電等の出来る限りの導入には大賛成だが、あまりにも過剰になり設置場所を考慮せず、太陽光パネルが乱立に設置される現在には疑問を抱く。その例として、「平成27年9月関東・東北豪雨」による災害が挙げられる。これは5千棟以上が全半壊し死亡者も出ている。この災害の原因として、太陽光発電事業者が砂丘林を掘削し無堤防状態になった事が一つの要因と言われていて、住民訴訟問題も起きている。それ以外にも、山の傾斜面や住宅街に太陽光が設置されているのを見掛ける事が多くなった。その上、昨今の豪雨による災害や、私の住む福井県のように予想を超える豪雪等を考慮すると、本当に大丈夫なのかと考えてしまう。
このような状況下で、今後日本のエネルギー政策はどのように進んでいくべきか?先にも述べたが、日本は資源が乏しい国で、その中で経済大国を維持するには、海外からエネルギーを調達し、精密な製品を海外へ輸出し外貨を勝ち取る事が日本の砦であると考えている。その精密な製品を作り上げるために必要なのが、高い技術力である。その高い技術力の一つとして日本の原子力技術も例外ではなく、安全管理体制も高い水準であると考えている。この技術を海外へ提供し、日本の原子力を導入する事も産油国との外交取引としては優位な部分であり、石油などのエネルギーの安定調達に貢献できるものと考える。しかし現状は、原子力規制委員会の審査をクリアし、且つ地元自治体の同意を得なければならず、地域によっては再稼働の見通しが立っていない。また海外での原子力受注も軒並み頓挫し、東芝のように原子力技術を持った企業も厳しい状況である。このままでは、この業界の技術継承は大変厳しく、近い将来、国内の技術では原子力を建設出来なくなる可能性も考えられる。これでは益々エネルギー自給率が低くなり、原子力でさえも海外からの輸入に頼らざるを得ない日が来るのではないかと思う。
今の国内のエネルギー問題は、次世代の国民への課題でもある。その世代へ明るい将来の展望が開ける「日本」を我々の世代が継承していかなければならない。その中で今行っているエネルギー議論が正しい方向性に向かっているのか、国やメディア等を含めて真剣に議論をして頂きたいと思っている。福井県のような原子力の立地をする地域だけで原子力の理解が深まったとしても、数の論理で都市部での議論が深まらない限り、国内での原子力の必要性は深まらない。しかし、今の若い世代の情報収集ツールがSNS等へ移行し、TVや新聞等を観ない人が増えていると聞いた。その点はメリット・デメリットがあるが、SNSは多方面からの情報収集が可能で、時にはTVや新聞等で報道されない情報も得る事が出来る。私は「原子力」に関しても、若い世代が多方面から情報を受け入れ、その中で総合的な判断をして頂く事を望んでいる。私のような原子力立地地域の住民が原子力の必要性を述べると、経済的な部分の恩恵があるからだと良く言われるが、それだけでは無いと思っている。現に福井県は原子力を経済面だけでは無く、人材の育成も考え「エネルギー研究開発拠点化計画」も進めてきた。そのお蔭もあり、福井県内の大学へ原子力工学を専攻する学生が県外からも入学しており、その人数は決して多くは無いが、大変優秀な学生もいる。私は世間が彼らに対して尊敬と感謝の念を抱き、温かく見守って頂ける社会になって欲しいと思うし、彼らが原子力技術を継承し日本のエネルギーを支える人材として育って頂きたいと願っている。そしていつか我々のような原子力立地地域が風評被害で悩まされる事なく、日本全体がエネルギー問題を考える社会になって欲しい。また、「原子力」「放射能」というワードに過敏に反応するのではなく、機会があれば、福井県等にある原子力施設や地元の住民との意見交換を交え、正確な情報を把握して欲しいと思っている。
最後になるが、「原子力発電」を「原発」と発する事も出来れば避けて欲しい。「火力発電」を「火発」、「水力発電所」を「水発」、「太陽光発電」を「太発」等とは略していない。何故か「原子力発電」だけが「原発」と言われてしまう…。他の発電と同様に「原子力」または「原子力発電」と世論が発して頂けるだけでも、立地住民の一人としてはありがたいと思う。

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