Vol. 29 (2023/5/8)
G7環境エネルギー大臣会合共同宣言を読んで
5月の広島でのG7サミットを前に、4月15、16日の両日、北海道札幌でG7環境・エネルギー大臣会合が開かれ、共同声明が出されました。
<現在は“エネルギー危機”>
この宣言では、ロシアのウクライナへの軍事侵攻という状況を受けて、現在のエネルギー情勢を“エネルギー危機”としています。
<2050年までに化石燃料生産段階的に廃止>
この大臣会合では、石油・石炭に加えて天然ガスの利用についても、2050年までに対策が取られていない限り段階的に廃止とするとしました。
宣言文には、次のように書かれています。
「我々は、2050年までに化石燃料の掘削・生産工程全体でネット・ゼロ排出を達成するというG7のコミットメントを再確認する。」
一部メデイアは、“天然ガスも段階的に廃止の対象”と伝えました。
<原子力発電の持つ力を評価>
宣言には、原子力発電についても書かれています。
原子力発電については、脱原発国:ドイツとイタリアを除いた原子力開発を進める5か国(米加日英仏)が共同して書きました。
宣言では、原子力発電の特徴を次のとおり説明しています。
「化石燃料への依存を低減し得る低廉な低炭素エネルギーを提供し、気候危機に対処し、ベースロード電源や系統の柔軟性の源泉として世界のエネルギー安全保障を確保する原子力エネルギーの潜在力を認識する。」
加えて、宣言では安全面の特徴についても強調されています。
<福島の汚染土壌や処理水にも触れる…IAEAのかかわりを“良し”とする>
事故を起こした福島第一原子力発電所の廃炉作業、汚染土壌の扱いや処理水の放出についても触れています。
これらについては、国際原子力機関:IAEAのコミット・主導性を評価して記述されています。事故を起こした福島第一原子力発電所の処理水の放出については、懸念を表明する国々もあるわけですから、宣言で触れるのは当然でもあります。
宣言文では、処理水の扱いについて、“オープンで透明性をもって国際社会と緊密なコミュニケーションを”取り続けるよう慫慂(しょうよう)しています。
<驚きの化石燃料段階的廃止>
冒頭にも触れましたが、宣言に書かれた化石燃料の段階的廃止について改めて考えてみます。
この点は、米加英日のみならず、脱原発のドイツとイタリア両国も、現在化石燃料を使っているわけで、これらの国々にとっても大変なことです。フランスは、原子力発電が多いですから、影響は他の国ほど大きくはないでしょう。
まず、脱原発の独伊両国を見てみます。
ドイツもイタリアも、今は天然ガスに大きく依存しています。
ドイツは、ロシアからの天然ガスを他地域からのガス(LNG)に切り替えるため大西洋側にLNG浮き気化装置を建設したばかりです。
イタリアは、これまではロシアの天然ガスに大きく頼っていましたが、輸入先をアルジェリアに変えようと交渉を始めています。
出典:原子力・エネルギー図面集
そんな状況なのに、2050年までにとはいえ、石油・石炭に加えて天然ガスの利用も止めようというのです。驚きます!
ただ、忘れてはいけないことがあります。ヨーロッパの国々にはエネルギー供給の“隠し玉”があるのです。
<ヨーロッパ諸国には“隠し玉”:大西洋の“貿易風”が>
“隠し玉”は、大西洋に吹く“貿易風”です。
この風は15,16世紀に大航海時代を開いた風です。
コロンブス、バスコダ・ガマやマゼランが偉業を成し遂げることができたのも、この風のおかげです。
この“貿易風”が今では風力発電の羽根を回して、発電をしています。ヨーロッパ勢は、この風に改めて頼ろうと考えているのかもしれません。
<化石燃料に大きく依存する米加日>
G7の中のアメリカ、カナダ、そして日本の三カ国は、石油・石炭・天然ガスにエネルギーの供給をどっぷりと頼っています。
現在、アメリカはエネルギー総供給の81%、カナダは64%、日本に至っては、85%を化石燃料に頼っています(BP統計)。
“漸減的に”かつ“対策が取られていない限り”とはいえ、この化石燃料の使用をやめるというのですから、驚くしかありません。
<増え続けるエネルギー起源CO2排出量>
ところで、G7がこれほど熱心に温室効果ガスの排出削減に取り組んでいるのですが、世界全体でのエネルギー起源CO2排出量は一向に減っていません。むしろ増え続けています。
その状況をこれまたBP統計で見てみます。
G7・7か国合計のエネルギー起源CO2排出量(2021年)は、年間22~23億トンで世界全体の排出量(338.8億トン)の22、23%を占めています。
<排出量が増え続ける中印など途上国>
一方、世界最大人口国のインドの年間排出量は7.5~8億トン。人口世界二番目の中国は、31億トン強で、両国合わせると38~39億トンと大きく、世界全体の総排出量の40%弱を占めています。
この中印二大大国のCO2排出量は、おそらくこれからも増え続けると思われます。ついでに非OECD諸国全体を見ますとその排出総量は226億トンで、世界総排出量の66~67%を占めています。この排出量はこれからも増え続けるに違いありません。
<大気中には国境線はない>
G7諸国は、懸命にGHG(温室効果ガス)排出削減に取り組んでいるわけですが、大きなコストがかかっています。
増加する地球全体の排出量を少しでも抑制しようと、現実的に考えるのであれば、G7諸国で排出削減に要している資金などの諸資源を非OECD諸国の排出増加抑制のために活用する方途を真剣に検討した方がはるかに大きな効果があると思います。
何といっても、大気中に国境はなく世界はつながっています。
温暖化ガス排出量削減のために必要なお金などには限りがあるうえ、お金を必要とする事々は限りがありません。“費用対効果”を考えて、より効果的に使いたいものです。
<現在は“エネルギー危機”>
この宣言では、ロシアのウクライナへの軍事侵攻という状況を受けて、現在のエネルギー情勢を“エネルギー危機”としています。
<2050年までに化石燃料生産段階的に廃止>
この大臣会合では、石油・石炭に加えて天然ガスの利用についても、2050年までに対策が取られていない限り段階的に廃止とするとしました。
宣言文には、次のように書かれています。
「我々は、2050年までに化石燃料の掘削・生産工程全体でネット・ゼロ排出を達成するというG7のコミットメントを再確認する。」
一部メデイアは、“天然ガスも段階的に廃止の対象”と伝えました。
<原子力発電の持つ力を評価>
宣言には、原子力発電についても書かれています。
原子力発電については、脱原発国:ドイツとイタリアを除いた原子力開発を進める5か国(米加日英仏)が共同して書きました。
宣言では、原子力発電の特徴を次のとおり説明しています。
「化石燃料への依存を低減し得る低廉な低炭素エネルギーを提供し、気候危機に対処し、ベースロード電源や系統の柔軟性の源泉として世界のエネルギー安全保障を確保する原子力エネルギーの潜在力を認識する。」
加えて、宣言では安全面の特徴についても強調されています。
<福島の汚染土壌や処理水にも触れる…IAEAのかかわりを“良し”とする>
事故を起こした福島第一原子力発電所の廃炉作業、汚染土壌の扱いや処理水の放出についても触れています。
これらについては、国際原子力機関:IAEAのコミット・主導性を評価して記述されています。事故を起こした福島第一原子力発電所の処理水の放出については、懸念を表明する国々もあるわけですから、宣言で触れるのは当然でもあります。
宣言文では、処理水の扱いについて、“オープンで透明性をもって国際社会と緊密なコミュニケーションを”取り続けるよう慫慂(しょうよう)しています。
<驚きの化石燃料段階的廃止>
冒頭にも触れましたが、宣言に書かれた化石燃料の段階的廃止について改めて考えてみます。
この点は、米加英日のみならず、脱原発のドイツとイタリア両国も、現在化石燃料を使っているわけで、これらの国々にとっても大変なことです。フランスは、原子力発電が多いですから、影響は他の国ほど大きくはないでしょう。
まず、脱原発の独伊両国を見てみます。
ドイツもイタリアも、今は天然ガスに大きく依存しています。
ドイツは、ロシアからの天然ガスを他地域からのガス(LNG)に切り替えるため大西洋側にLNG浮き気化装置を建設したばかりです。
イタリアは、これまではロシアの天然ガスに大きく頼っていましたが、輸入先をアルジェリアに変えようと交渉を始めています。
出典:原子力・エネルギー図面集
そんな状況なのに、2050年までにとはいえ、石油・石炭に加えて天然ガスの利用も止めようというのです。驚きます!
ただ、忘れてはいけないことがあります。ヨーロッパの国々にはエネルギー供給の“隠し玉”があるのです。
<ヨーロッパ諸国には“隠し玉”:大西洋の“貿易風”が>
“隠し玉”は、大西洋に吹く“貿易風”です。
この風は15,16世紀に大航海時代を開いた風です。
コロンブス、バスコダ・ガマやマゼランが偉業を成し遂げることができたのも、この風のおかげです。
この“貿易風”が今では風力発電の羽根を回して、発電をしています。ヨーロッパ勢は、この風に改めて頼ろうと考えているのかもしれません。
<化石燃料に大きく依存する米加日>
G7の中のアメリカ、カナダ、そして日本の三カ国は、石油・石炭・天然ガスにエネルギーの供給をどっぷりと頼っています。
現在、アメリカはエネルギー総供給の81%、カナダは64%、日本に至っては、85%を化石燃料に頼っています(BP統計)。
“漸減的に”かつ“対策が取られていない限り”とはいえ、この化石燃料の使用をやめるというのですから、驚くしかありません。
<増え続けるエネルギー起源CO2排出量>
ところで、G7がこれほど熱心に温室効果ガスの排出削減に取り組んでいるのですが、世界全体でのエネルギー起源CO2排出量は一向に減っていません。むしろ増え続けています。
その状況をこれまたBP統計で見てみます。
G7・7か国合計のエネルギー起源CO2排出量(2021年)は、年間22~23億トンで世界全体の排出量(338.8億トン)の22、23%を占めています。
<排出量が増え続ける中印など途上国>
一方、世界最大人口国のインドの年間排出量は7.5~8億トン。人口世界二番目の中国は、31億トン強で、両国合わせると38~39億トンと大きく、世界全体の総排出量の40%弱を占めています。
この中印二大大国のCO2排出量は、おそらくこれからも増え続けると思われます。ついでに非OECD諸国全体を見ますとその排出総量は226億トンで、世界総排出量の66~67%を占めています。この排出量はこれからも増え続けるに違いありません。
<大気中には国境線はない>
G7諸国は、懸命にGHG(温室効果ガス)排出削減に取り組んでいるわけですが、大きなコストがかかっています。
増加する地球全体の排出量を少しでも抑制しようと、現実的に考えるのであれば、G7諸国で排出削減に要している資金などの諸資源を非OECD諸国の排出増加抑制のために活用する方途を真剣に検討した方がはるかに大きな効果があると思います。
何といっても、大気中に国境はなく世界はつながっています。
温暖化ガス排出量削減のために必要なお金などには限りがあるうえ、お金を必要とする事々は限りがありません。“費用対効果”を考えて、より効果的に使いたいものです。
理事長 桝本 晃章