INTRODUCTION
本WEBサイトでは、日本のエネルギー事情や原子力政策、原子力利用の現状とイノベーション、放射線防護、原子力施設の規制や安全性向上対策、原子力防災などを総合的に紹介しています。今年度は、電力需給ひっ迫やロシアのウクライナ侵略などの最新情報についても取り上げています。
原子力の学習や研修会などで本WEBサイトを活用していただければ幸いです。
2023年1月
一般財団法人 日本原子力文化財団
監修者からのメッセージ
全編
2022年のエネルギーと原子力に関するひときわ重要な出来事は、グリーントランスフォーメーション(GX)実行会議が開催、原子力開発利用の道筋が具体化されたことでしょう。GXのゴールは、産業革命以来の化石燃料中心の経済・社会、産業構造をクリーンエネルギー中心に移行させ、経済社会システム全体の変革を実行するというビッグ・チャレンジです。日本は、脱炭素に向けて国際公約を掲げ、気候変動問題に対して国家を挙げて対応する強い意志を表明しています。もちろん、このGX実現には日本のエネルギーの安定供給の再構築が前提となります。エネルギーの安定供給、経済効率性、環境への適合性の、いわゆる3Eの特性をバランスよく備える原子力エネルギーは、再生可能エネルギーとともにGXに不可欠な脱炭素エネルギーと位置付けられています。
世界に目を転じれば、エネルギー安定供給に対する予見し難い脅威に振り回された一年でもありました。気候変動や供給力不足による電力需給ひっ迫は、2021年に続き2022年も繰り返されました。さらに、2022年2月、ロシアのウクライナへ軍事侵略がエネルギー危機とエネルギー価格高騰に拍車をかけました。また、原子力発電所や送電設備、そのほかのライフラインが攻撃対象となり、国の重要インフラの防衛とリスク管理も社会の耳目を集めました。さらにエネルギーなどの資源をロシアに過度に依存することの危うさも明らかになり、エネルギー供給の自己決定力を有することがエネルギー政策の重要な基本要件となりました。これらの出来事から学んだ教訓は、GX実行会議で取りまとめられた今後10年を見据えた取り組み方針に適切に反映されるものと確信しています。
GX実現に向けた基本方針と今後10年を見据えたロードマップでは、既設炉の再稼働の加速、運転期間延長など既設炉の最大限活用、次世代革新炉の開発と建設といった具体的な対応方針が示されました。これを踏まえて、現世代の軽水炉の利用、次の世代の革新軽水炉、さらに将来のエネルギー安定供給の持続性を担う高速炉や熱利用が可能な高温ガス炉などの開発・建設に取り組むことになります。そして核燃料サイクルを完成させるため、使用済燃料の中間貯蔵と再処理、軽水炉の廃止措置、高レベル放射性廃棄物の最終処分の実現に向けた取り組みの強化など、原子力の開発利用の全体像が行動指針として描かれました。
原子力総合パンフレット2022年度版では、エネルギーと原子力に大きな影響を及ぼすこれらの出来事について充実した記載を新たに加えました。もちろん、これまで読者から好評をいただいた、エネルギー情勢と政策、原子力の技術と発電、放射線防護、安全確保対策や原子力防災についての記載も拡充しました。GX実現に向けた取り組みである、原子力発電所の再稼働の状況や次世代革新炉とイノベーションについての説明も充実させています。
いよいよエネルギー経済安全保障とカーボンニュートラルを両立させるエネルギー・チャレンジが始まりますが、原子力利用には何よりも安全を最優先に安全神話からの脱却を不断に問い続けることが前提でなければなりません。原子力の価値、安全への取り組み、原子力のリスクなどを、立地地域の皆様や国民各層の方々に知っていただくために、本WEBサイトは役立つものと確信しています。本WEBサイトは専門的な内容を扱っていますが、ワンポイント情報や多くの図表を挿入し、わかりやすくお読みいただけるような工夫をいたしました。全編の監修者として、2022年度も原子力総合パンフレットを皆様にお届けできることは大きな喜びです。原子力の理解活動に本WEBサイトが役立つことを期待してやみません。
山口 彰
公益財団法人 原子力安全研究協会 理事
1章「日本のエネルギー事情と原子力政策」
2022年はウクライナ危機の影響で国際エネルギー情勢は激動の年となりました。エネルギー価格高騰と市場不安定化でエネルギー安全保障が最重要の喫緊課題となり、世界でエネルギー安定供給確保への取り組みが本格的に強化されるようになりました。この状況下、短期的には「石炭回帰」といった脱炭素化へ逆行する動きも現れていますが、中長期的にはエネルギー安全保障と脱炭素化の両立に向けた取り組み強化が進むものと思われます。こうした中、原子力への関心と期待は世界で大きく高まっています。高まる期待にどう原子力が応えるのかが今後問われていくでしょう。
小山 堅
一般財団法人 日本エネルギー経済研究所 専務理事 首席研究員
2022年2月より始まったロシアのウクライナへの侵略によりエネルギー需給状況が国際的に厳しくなっていますが、ヨーロッパや日本などアジア諸国にとってはこれが初めてのエネルギー危機ではありません。ウクライナ危機は、日本の地政学的位置付けを踏まえた平素からのエネルギー安全保障の取り組みがいかに重要であるかを我々に改めて教えてくれました。「ウクライナ危機の今こそ、原子力の重要性を再認識するべきだ」ではないのです。ウクライナ危機が終息し世界に平和が戻ったら、もう原子力は重要ではなくなるのか。皆様にぜひ考えていただきたいと思います。
村上 朋子
一般財団法人 日本エネルギー経済研究所 戦略研究ユニット 原子力グループ
グループマネージャー 研究主幹
3章「放射線と放射線防護」
この章では、放射線や放射性物質の性質、人体への影響とそのメカニズム、放射線から身を守るための注意点などについて解説するとともに、放射線の有益な側面にも光を当てたいと考えました。たとえば、放射線は細胞のDNAに傷をつけることによって発がんの原因となりますが、その一方でがんの治療にも用いられています。このように放射線がさまざまな分野でどのように活用されているかを、この章の最初に見開き2ページで写真なども使ってまとめました。放射線のリスクとベネフィットの両方を理解して、放射線との向き合い方を考える一助となれば幸いです。
松本 義久
東京工業大学 科学技術創成研究院 ゼロカーボンエネルギー研究所 教授
5章「原子力防災」
2022年は、ロシア軍によるウクライナ侵略により、軍による原子力発電所の占拠、核攻撃などの情報が飛び交いました。東日本大震災から10年以上が経過し、忘れかけていた原子力防災の重要性を思い出すきっかけになった年でした。戦時下での放射線防護について現地で啓発活動を進めてきたウクライナ人研究者からのメッセージを84ページに掲載しました。今一度、東京電力福島第一原子力発電所事故の教訓、その後の原子力防災対策を振り返り、自分事として「屋内退避と避難」について考え直すきっかけとなれば幸いです。
安田 仲宏
福井大学 附属国際原子力工学研究所 教授