原子力総合パンフレット Web版

3章 放射線と放射線防護

放射線と放射能の性質

放射線は物質を通り抜ける力があり、放射能は時間がたつにつれて弱まる性質があります。

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放射線と放射性物質とは

地球や宇宙にあるすべての物質は、「原子」からできています。原子は、原子核とそのまわりを回る電子から構成され、原子核は、陽子と中性子で構成されます。電子は、マイナスの電荷をもっています。一方、陽子は、同じ大きさのプラスの電荷をもっています。中性子は、電荷をもっていません。
原子が電気的な中性を維持するため、電子の数と陽子の数は基本的に同じです。原子の化学的な性質は、電子の数と配置によって決まることから、電子の数と基本的に同数となる陽子の数によって決まることになります。そこで、原子核のもつ陽子の数を「原子番号」といいます。また、陽子の数が同じもの同士でまとめたものを「元素」といいます。
陽子と中性子の質量は、ほぼ同じです。一方で、電子の質量は、陽子や中性子の質量の約1,800分の1です。したがって、原子の質量は、原子核に陽子と中性子が合計何個あるかでほぼ決まります。このことから陽子と中性子の数の合計を「質量数」といいます。陽子の数が同一(同じ元素)でありながら、中性子の数が異なる原子を「同位体」といいます。
エネルギー的に安定で、地球や宇宙の年齢程度の時間では変化しない原子を「安定同位体」といいます。一方、原子には高いエネルギーをもった不安定な状態のものがあります。時間の経過とともにその中心にある原子核が、高速の粒子や電磁波を出して、安定な状態になっていきます。こうして放出される高速の粒子や電磁波が「放射線」です。放射線を出す能力を「放射能」といい、放射能をもつ原子を「放射性同位元素」あるいは「放射性同位体(RI、Radioisotope)」といいます。RIを含む物質が「放射性物質」です。

例えば、身近な元素である水素の場合、原子核が陽子1個からなる軽水素のほか、陽子1個と中性子1個からなる重水素、陽子1個と中性子2個からなる三重水素(トリチウム)があります。このうち、軽水素と重水素は安定同位体で、トリチウムはRIです(「ワンポイント情報」参照)。
また、セシウムの同位体のうち、セシウム133は安定同位体で、セシウム134、セシウム137などはRIです。セシウム137の場合、中性子が過剰で不安定な状態のため、中性子は電子を1個放出し、1個陽子に変わりバリウム137mとなります。このときに放出された電子が放射線(ベータ線)です。バリウム137mは、まだエネルギーが高く、不安定な状態のため、エネルギーを電磁波として放出し、放射線を出さない安定同位体のバリウム137になります。このときに放出された電磁波も放射線(ガンマ線)です。

セシウム137が放射線を出すしくみ

セシウム137が放射線を出すしくみ

※バリウム137mは「エネルギーの高い状態のバリウム137」を表し、同じ種類の原子でも違う構造をしているため、バリウム137に「m(metastable、メタステーブル)」を付けて区別します。

出典:東京工業大学 松本義久氏 資料より作成

安定な原子核と不安定な原子核(例)

安定な原子核と不安定な原子核(例)

原子の構成

原子の構成
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放射線の種類と透過力

放射性物質には、地球の誕生時から自然界に存在する天然のものと、宇宙線の作用でつくられるもの、原子炉などで人工的につくられるものがあります。しかし、それらの放射性物質から出る放射線の性質は、放射線の種類とエネルギーによって決まり、天然か人工かによる違いはありません。
放射線には、アルファ線、ベータ線、ガンマ線、エックス線、中性子線などの種類があります。
1901年に第1回ノーベル物理学賞を受賞したドイツのレントゲンが、1895年、真空管の一種である放電管を使った実験中にエックス線を発見しました。エックス線は、人工の放射線でガンマ線と同じ電磁波の一種です。
放射線は、物質を通り抜ける力をもっています。しかし、その力は放射線の種類によって違い、適切な材料や厚さなどを選ぶことによって、さえぎることができます。
例えば、最も透過力の低いアルファ線は、紙1枚でとめることができます。ベータ線は、アルミニウムなどの薄い金属板やプラスチック板、ガンマ線やエックス線は、鉛や厚い鉄の板、さらに中性子線は、水やコンクリートによってさえぎることができます。

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放射能の減衰

RIの放射能は、時間がたつにつれて弱まる性質があり、これを減衰といいます。また、放射能が半分に減るまでにかかる時間を半減期あるいは、物理学的半減期といいます。RIの種類によって半減期は異なり、数秒以下の短いものから、100億年を超える長いものまであります。
毎日、私たちは呼吸や飲食を通して、さまざまな放射性物質を体内に取り込んでいます。これらは、体の代謝や排泄によって体外に排出されます。体に取り込んだ量が、排出によって半分に減るまでにかかる時間を生物学的半減期といいます。生物学的半減期は、放射性物質の化学的な性質や、体内に取り入れた人の年齢など、生理的な要因によって異なります。
また、体内にあるRIの放射能が、物理学的半減期や生物学的半減期などにより、半分に減るまでにかかる時間を実効半減期といいます。実効半減期は、物理学的半減期や生物学的半減期より短くなります。
このように、私たちが放射性物質を体内に取り込んだ場合、体の中にあるRIは、放射能の減衰と体外への排出によって減っていきます。

放射能の減り方

放射能の減り方

物理学的半減期

物理学的半減期

※壊変生成物(原子核が放射線を出して別の原子核になったもの)からの放射線も含む

出典:(公社)日本アイソトープ協会「アイソトープ手帳11版」より作成

関連情報(詳細):日本原子力文化財団「原子力・エネルギー図面集」

ワンポイント情報

トリチウムとは

トリチウムは、水素の仲間(同位体)で、陽子1個と中性子2個からなります。トリチウムはベータ線を出して、安定同位体のヘリウム3になります。トリチウムの半減期は12.3年です。トリチウムが放出するベータ線はエネルギーが非常に小さく、皮膚の表面で止まります。
トリチウムは原子力発電による核分裂や、リチウム6と中性子の反応で発生しますが、自然界では宇宙線と大気中の窒素、酸素が反応することで生じ、主に水の状態で存在しています(降雨中に1?3ベクレル/リットル)。
トリチウムを含む水は、水と同じように新陳代謝などによって排出されるため、人間の体や魚、貝などの海産物に蓄積されることはほとんどありません。ごく一部は有機物に取り込まれますが、それでも体内にとどまる時間は水の4?5倍程度です。1ベクレルのトリチウムを取り込んだ場合の被ばく量は、1ベクレルの放射性セシウムを取り込んだ場合の被ばく量の1,000分の1程度です。

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