原子力総合パンフレット Web版

2章 原子力開発と発電への利用

2章(原子力開発と発電への利用)のポイント

2024年は、既設炉の再稼働状況が更新されました。これまでは、関西電力(株)の7基、九州電力(株)の4基、四国電力(株)の1基の加圧水型原子炉12基が再稼働を果たしていましたが、東北電力(株)の女川原子力発電所2号機と中国電力(株)の島根原子力発電所2号機が再稼働しました。女川原子力発電所2号機については、沸騰水型原子炉(BWR)として初めての再稼働であり、特に、被災した地域の原子炉が再稼働したことは、原子力を最大限活用していくうえで極めて意義深いものとなります。今後、東京電力ホールディングス(株)柏崎刈羽原子力発電所6号機、7号機といったBWRの再稼働が続いていくことを期待しています。
次世代革新炉の開発・建設に関しては、五つの炉型(革新軽水炉、小型モジュール炉(SMR)、高速炉、高温ガス炉、核融合)の特徴がまとめられています。革新軽水炉はいわゆる既設炉がより高度化されたもので、リプレース炉として大きく期待されています。SMRは特に海外で開発が進んでおり、例えばアメリカでは、老朽化した小型石炭火力の代替炉として注目されています。高速炉と高温ガス炉に関しては、我が国で実証炉を開発・建設すべく準備が進められています。核融合に関しては、発電の実証というところで研究開発が進められています。このような各炉の開発・建設の時間軸は、国がつくった技術ロードマップでまとめられています。
バックエンド側の話としては、青森県の六ヶ所村にある再処理工場とMOX燃料工場のしゅん工時期の見直しがありました。2024年11月時点で、再処理工場は2026年度中、MOX燃料工場は2027年度中のしゅん工を目指すことになっています。この目標に向けて、関係者は大変な努力をされています。一方で、2024年11月、青森県むつ市の中間貯蔵施設が事業を開始しました。また、高レベル放射性廃棄物の処分に関しては、佐賀県の玄海町で文献調査が始まることになりました。このように、原子燃料サイクル事業は、一歩一歩着実に前に進んでいます。

監修者からのメッセージ

本章では、原子力開発の歴史・原子力発電の仕組み・原子炉の種類・原子力発電の特徴といったいわゆる教科書的な内容から、現在の我が国における原子力の活用状況や将来に向けての次世代革新炉の開発・建設といった最新の動向に至るまで、幅広い情報が示されています。原子燃料サイクルや高レベル放射性廃棄物の最終処分といったバックエンド側の状況についても、詳しく解説されています。原子力は発電に際して二酸化炭素を排出しませんが、放射性廃棄物は発生します。このことは、原子力の魅力と課題を端的に表しています。魅力ゆえに脱炭素電源として最大限活用されようとしていますし、課題ゆえに放射性廃棄物の処理・処分に向けて関係者は全力で取り組んでいます。読者の皆様がこういった原子力の魅力と課題を考えるに際して、本章がその一助になれば幸いです。

黒﨑 健 (京都大学 複合原子力科学研究所 所長・教授)

黒﨑 健
京都大学 複合原子力科学研究所 所長・教授

次へ
前へ
ページトップ
1章(日本のエネルギー事情と原子力政策)のポイント

1章(日本のエネルギー事情と原子力政策)のポイント

日本のエネルギー選択の歴史と原子力

日本のエネルギー選択の歴史と原子力

エネルギーミックスの重要性

エネルギーミックスの重要性

日本のエネルギー政策〜各電源の位置づけと特徴〜

日本のエネルギー政策
〜各電源の位置づけと特徴〜

日本のエネルギー政策〜2030年、2050年に向けた方針〜

日本のエネルギー政策
〜2030年、2050年に向けた方針〜

エネルギーの安定供給の確保

エネルギーの安定供給の確保

エネルギーの経済効率性と価格安定

エネルギーの経済効率性と価格安定

環境への適合

環境への適合

原子力の安定的な利用に向けて 〜再稼働、原子燃料サイクル、使用済燃料の中間貯蔵〜

原子力の安定的な利用に向けて
〜再稼働、原子燃料サイクル、使用済燃料の中間貯蔵〜

原子力の安定的な利用に向けて 〜高レベル放射性廃棄物〜

原子力の安定的な利用に向けて
〜高レベル放射性廃棄物〜

国際的な原子力平和利用と核の拡散防止への貢献

国際的な原子力平和利用と核の拡散防止への貢献

〈参考〉世界の原子力発電の状況

〈参考〉世界の原子力発電の状況

〈トピック〉電力需給ひっ迫

〈トピック〉電力需給ひっ迫

2章(原子力開発と発電への利用)のポイント

2章(原子力開発と発電への利用)のポイント

原子力開発の歴史

原子力開発の歴史

日本の原子力施設の状況

日本の原子力施設の状況

原子力発電のしくみ

原子力発電のしくみ

原子炉の種類

原子炉の種類

次世代原子炉の種類

次世代原子炉の種類

原子力発電所の構成

原子力発電所の構成

原子力発電の特徴

原子力発電の特徴

原子燃料サイクル

原子燃料サイクル

再処理と使用済燃料の中間貯蔵

再処理と使用済燃料の中間貯蔵

高レベル放射性廃棄物

高レベル放射性廃棄物

低レベル放射性廃棄物

低レベル放射性廃棄物

3章(原子力施設の規制と安全性向上対策)のポイント

3章(原子力施設の規制と安全性向上対策)のポイント

原子力発電所の規制と検査制度

原子力発電所の規制と検査制度

新規制基準を踏まえた原子力施設の安全確保

新規制基準を踏まえた原子力施設の安全確保

原子力発電所の地震の揺れや津波・浸水への対策

原子力発電所の地震の揺れや津波・浸水への対策

自然現象や重大事故への対策

自然現象や重大事故への対策

原子力施設のさらなる安全性向上に向けた対策

原子力施設のさらなる安全性向上に向けた対策

自主的・継続的な安全性向上への取り組み

自主的・継続的な安全性向上への取り組み

4章(原子力発電所の廃炉に向けた取り組み)のポイント

4章(原子力発電所の廃炉に向けた取り組み)のポイント

原子力発電所の廃止措置と解体廃棄物

原子力発電所の廃止措置と解体廃棄物

福島第一原子力発電所事故の概要と教訓

福島第一原子力発電所事故の概要と教訓

廃炉への取り組み ~中長期ロードマップ、燃料デブリ~

廃炉への取り組み
~中長期ロードマップ、燃料デブリ~

廃炉への取り組み〜汚染水対策、処理水の取り扱い〜

廃炉への取り組み
〜汚染水対策、処理水の取り扱い〜

周辺住民や飲食物への影響

周辺住民や飲食物への影響

5章(放射線と放射線防護)のポイント

5章(放射線と放射線防護)のポイント

さまざまな分野で活躍する放射線

さまざまな分野で活躍する放射線

放射線と放射能の性質

放射線と放射能の性質

放射能・放射線の単位と測定

放射能・放射線の単位と測定

被ばくと健康影響

被ばくと健康影響

外部被ばくと内部被ばく

外部被ばくと内部被ばく

身のまわりの放射線

身のまわりの放射線

放射線被ばくによるリスク低減とモニタリング

放射線被ばくによるリスク低減とモニタリング

6章(原子力防災)のポイント

6章(原子力防災)のポイント

原子力防災の概要

原子力防災の概要

原子力災害対策と緊急事態の区分

原子力災害対策と緊急事態の区分

初期対応段階での防護措置

初期対応段階での防護措置

被ばくを避けるためにとる行動(防護措置)

被ばくを避けるためにとる行動(防護措置)

平常時と原子力災害時の住民の行動

平常時と原子力災害時の住民の行動

原子力施設と法律

原子力施設と法律

原子力損害の賠償

原子力損害の賠償