原子力総合パンフレット Web版

放射線と放射線防護

放射線被ばくによるリスクの低減に向けて

外部被ばく線量を減らすためには、時間や距離、遮へいによる防護が重要です。
内部被ばく線量を減らすためには、呼吸や飲食などによって体内へ放射性物質を取り込む量を減らすことが重要です。

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外部・内部被ばくの低減

外部被ばく線量を減らすためには、「時間」、「距離」、「遮へい」による防護があります。

【時間】

放射線源の近くにいる時間を短くする。

【距離】

放射線源からできるだけ距離をとる。例えば、放射性物質と人との距離が2倍になれば時間あたりの放射線量は4分の1になる(時間あたりの放射線量は距離の二乗に反比例)。

【遮へい】

放射線を効率的に吸収する物質を放射線源と人の間に設置する。
内部被ばく線量を減らすためには、空気や飲み物、食べ物とともに取り込む放射性物質を減らすことが重要となります。また、放射性物質が体の内部にあり、体内から被ばくする場合は、体外への排出を増やしたり早めたりする処置をとります。
原子力施設の事故などで放射性物質が放出された場合、建物の中に退避する屋内退避は、外部被ばくと内部被ばくを低減させるための有効な手段とされています。

ワンポイント情報

屋内退避による遮へい効果

原子力施設の事故などで浮遊性の放射性物質が放出され、土壌や建物に放射性物質が沈着した場合、木造家屋は外からの放射線量を約4割に低減します。ブロックやレンガの家屋、鉄筋コンクリート家屋では、より遮へい効果が高まります。また、放射性物質が主に土壌の表面にある場合、高層階になるほど土壌からの距離が離れるため、屋内で受ける放射線量も少なくなります。

屋内退避による遮へい効果

※建物から十分離れた屋外での線量を1としたときの、建物内の線量の比

出典:原子力安全委員会「原子力施設等の防災対策について」(1980年6月(2010年8月一部改訂))

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放射線防護の考え方

がんや遺伝性影響は、どんなに低い線量でもその頻度が増加する確率的影響であると考えられていることから、安全と危険の境界を明確に区分することはできません。そこで、国際放射線防護委員会(ICRP)では、世界中の専門家が集まって放射線防護の基本的な考え方を議論し、勧告をまとめています。
放射線防護では、どんなに小さくとも線量に応じてリスクがあるものとして、「リスクを容認できる」ことを基準に、防護のレベルが考えられ、原則として「正当化」、「防護の最適化」、「線量限度の適用」が重要であるとされています。

【正当化】

放射線の利用によって得られる便益が、放射線被ばくによる損害を上回る場合にのみ、放射線の利用が容認されるとしています。例えば、医療における被ばくがこれにあたります。病気を治療したり、診断によって病気を予防したりすることができる利益の方が放射線による健康影響よりも優先されるときに放射線の利用が認められます。また、逆に、放射線被ばく量を少なくするために避難指示などの措置をとる場合(介入といいます)においても、それによって得られる便益が損害を上回る場合にのみ正当化されます。

【防護の最適化】

社会・経済的なバランスも考慮しつつ、合理的に達成可能な範囲でできるだけ被ばくを少なくすべきであるとしています。英語の”As low as reasonably achievable”の頭文字をとって、ALARAの原則ともよばれます。

【線量限度の適用】

線量限度は、管理の対象となる放射線源からの被ばくの合計が、その値を超えないように管理しなければならないという値で、職業上の被ばく、公衆の被ばくに関して定められています。線量限度は、そこまで被ばくして良いという値ではなく、安全と危険の境界を示す線量でもありません。線量限度は、被ばくが生じる前に放射線防護を計画できる状況(計画被ばく状況)にのみ適用されます。事故などの緊急時やその復旧段階における被ばくに関しては、線量限度ではなく、参考レベルが適用され、防護の最適化を行う際の目安や目標になります。
これらを達成するためにICRPは、線量限度や参考レベルの適用法や具体的な数値あるいはその範囲について勧告しており、日本においても、この勧告の多くを法律に取り入れています。

根拠情報:国際放射線防護委員会(ICRP)1990年勧告

放射線防護における線量の基準の考え方

放射線防護における線量の基準の考え方

※出典:原子力安全委員会資料などより作成

関連情報(詳細):日本原子力文化財団「原子力・エネルギー図面集」

【平常時の線量基準】

線量限度とは、個人が受ける被ばく量を、合理的な範囲内でできるだけ抑えるために設けられた上限値です。
平常時で、放射線の線源や人への被ばくが制御できている状況では、職業として放射線を取り扱う人の職業被ばくを管理するため、5年間で100ミリシーベルト(1年間では、50ミリシーベルトを超えない)の線量限度が定められています。
一般の人に対しては、1年間で1ミリシーベルトの線量限度が設定されています。

【事故が発生したときの初期の線量基準】

原子力施設で事故が発生し、放射線によって、職場の作業者や一般の人の被ばくが、著しく増加する緊急事態では、屋内退避や避難、除染、食物などの摂取制限などの対策が適切に実施されます。
それは、確定的影響を避けるためと、確率的影響を最小化するという、防護の目的を達成するために講じられます。とくに、人々の体に深刻な確定的影響を出さないことが優先されます。
事故が発生した初期の段階で、防護活動によって避けられる被ばくの目安が設けられています。2日を超えない期間で10ミリシーベルトの被ばくの回避が見込まれる場合は屋内退避、1週間を超えない期間で50ミリシーベルトの被ばくの回避が見込まれる場合は避難が実施されます。
緊急時に対応にあたる作業者の線量限度は100ミリシーベルトと定められていますが、福島第一原子力発電所の事故では、収束作業に支障が生じるため、一時的に線量限度を250ミリシーベルトに引き上げました。このことを教訓に見直しが進められ、電離放射線障害防止規則等の改正にともない、2016年4月から緊急時に対応にあたる作業者の線量限度が250ミリシーベルトに引き上げられました。

根拠法令:厚生労働省 報道発表資料

【事故が発生したときの緊急時の線量基準】

ICRPでは、事故などの緊急時においては、救命活動などを除いて、年間または一度に20~100ミリシーベルトの範囲で、避難や除染、摂取制限などの基準を定めることを勧告しています。これは線量限度ではなく、参考レベルとよばれています。
原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR、United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation)の評価によると、福島第一原子力発電所の事故で避難した住民の被ばくは、避難しなかった場合と比べて10分の1に減らすことができたとしています。一方で、高齢者など避難による生活環境の変化による関連死や、精神的・社会福祉的なマイナス影響も生じているとしています。

根拠データ:原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)「福島第一原子力発電所事故」

【事故収束後の長期的なリスク管理目標】

緊急時の事態の収束後、平常時より高いレベルの線量のもとで、一般の人の被ばく管理や防護活動を行う場合、周囲の状況に応じながら、1~20ミリシーベルトの範囲で、可能な限り低い参考レベルを選定することが勧告されています。
放射線防護は、被ばくを防止・低減して、早く平常時に戻すことを目的としています。そのためには、社会的・経済的要因を考慮して、さまざまな対策が合理的であったかを確認しながら線量目標を下げていくことになります。
福島第一原子力発電所の事故では、ICRPが勧告している年間20~100ミリシーベルトの緊急時の参考レベル枠から、20ミリシーベルトに相当する避難基準が採用され、国の指示により住民の避難や事故対応が行われました。
帰還した住民は、事故収束後の被ばく状況に適用される年間1~20ミリシーベルト枠から適切な参考レベルを選定して、放射線防護対策を行うことになります。
このようにICRPの勧告を参考に、地域の除染を進め、住民の被ばく線量の目標を徐々に減らし、将来的には平常時の年間1ミリシーベルト以下を目指すことになります。
20ミリシーベルト、1ミリシーベルトなどの数値は、被ばく線量をできる限り低く抑える、最適化とよばれる放射線防護活動の原則を実践するための目安です。そのため、安全と危険の境界を示すものではありません。発がんのリスクを最小化する手段であり、この程度の線量は、確定的影響とよばれる身体的な影響は起こらないレベルの被ばくです。
放射線を恐れるあまり、精神的ストレスやさまざまな発がん要因、肥満、運動不足などの健康リスクを高めることがないように、バランスのよい生活態度を選択する工夫が必要です。

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