電力需給ひっ迫とは
1日の中で最も多く電気が使われる需要のピークに対して、供給(電気をつくる量)に余裕がなくなることを電力需給ひっ迫といいます。電気は大量に貯めておくことができないため、気温上昇などによる急な需要の増加や発電機のトラブルなどによる供給力の低下に備え、発電できる最大量は想定される需要よりも余裕をもたせる必要があります。
電力需給の原則
電力の需要量と発電の電力量はつねに一致させる必要があり、これを「同時同量の原則」といいます。
同時同量のバランスが崩れると、電気の周波数が乱れ、電力系統の機器・装置の動作不安定や、最悪の場合は地域が大停電に陥る可能性があるため、天候や過去の需要実績などに基づいて精密に電力需要を予測するなどして、実際の需要変動に合わせて供給力が調整されています。周波数を安定して維持し電気を安定供給するには、需要に対する供給余力の余裕がどの程度あるかを示す「予備率」が最低限3%必要とされています。
出典:電力広域的運営推進機関ホームページより作成
電力需給ひっ迫注意報・警報
東日本大震災による電力危機をきっかけに、予備率が3%を下回ると予想される、または下回った場合に、大停電を未然に防ぐため、経済産業省資源エネルギー庁が「電力需給ひっ迫警報」を発令するという制度が導入され、2022年3月22日に初めて発令されました。2022年6月7日には、警報に加えて「電力需給ひっ迫注意報」と一般送電事業者が発出する「電力需給ひっ迫準備情報」が新設されました。
発出の基準は、右のようになっています。
●予備率が5%以下の見込みの場合
- ・前々日の18時頃に一般送電事業者が「電力需給ひっ迫準備情報」を発表
- ・前日の16時頃に、資源エネルギー庁が「電力需給ひっ迫注意報」を発令
●予備率が3%以下の見込みの場合
- ・前日の16時頃に、資源エネルギー庁が「電力需給ひっ迫警報」を発令
※予備率が1%以下の場合には、計画停電が実施されます。
電力需給ひっ迫の要因
2022年3月22日の電力需給ひっ迫は、5日前に発生した福島県沖地震と季節外れの寒さという、二つの稀な要因が重なったために発生しました。
●地震の影響 … 3月16日に発生した福島県沖地震により計14基647.8万kWの火力発電所が停止し、3月22日時点でも6基334.7万kWは停止したままでした。さらに、地震や定期点検の影響で、東北から東京向けの地域間連系線(500万kW分)の半分が利用できませんでした。また、冬のピーク終了にともなう発電所の計画的な補修点検の真っ最中であり、1月6日の冬の最大需要(5,374万kW)と比べ、計511万kWの発電所が計画停止中であったことも災いしました。
●寒さの影響 … 3月22日の最大需要電力予想値は19日20時時点で4,300万kWであったのに対し、21日には予想最高気温が5.6度、最低気温が4.7度それぞれ低く想定されたことにより、需要が4,840万kWと540万kW増加しました。これが需給ひっ迫につながりました。
■3/16〜23の各時間帯の東京エリア需要実績と東京気温実績
出典:資源エネルギー庁資料より作成
電力需給対策について
電力需給のバランスをとるためには、電力需給予測精度を可能な限り向上させたうえで、常日頃からのピーク需要の抑制、ベースロード電源の確保、緊急時のレジリエンス(強靭性)向上といった方策が有効です。
〇戦略的予備力
予測の難しい非ピーク時のひっ迫対策としては、緊急時のための予備力を確保する仕組みが必要です。スウェーデンやドイツなどでは「戦略的予備力」という、あらかじめ安定供給に必要な供給予備力を決めておき、緊急時に稼働させる仕組みを採用しています。主に老朽化した火力発電設備で、稼働させた場合には割高な負担が発生するように設定されており、戦略的予備力の稼働を避けようとするインセンティブも与えられます。
〇地域間連系線の強化
日本の電力系統はエリアごとに需給バランスが管理されており、エリア同士は地域間連系線という送電線で結ばれています。そのため、あるエリアでひっ迫が起こっても、他のエリアから連系線を通じて電力供給をすることができます。しかしながら、送電可能な容量が十分ではないとの問題が以前から指摘されており、北海道本州間の連系設備や東北東京間連系線、東京中部間連系線は増強の検討が進められています。
〇デマンドレスポンス(需要調整)の仕組み
企業や国民による節電については、「お願い」ベースではなく、義務や報酬を含めた「デマンドレスポンス(需要調整)」の仕組みが必要とされています。これは、需要が高く見込まれる時間帯に高い電気料金を設定したり、ピーク時に使用を控えた消費者に対し対価を支払ったりすることにより、ピーク時の電力消費を抑え、電力の安定供給を図る仕組みです。
〇ベースロード電源の確保・活用
原子力発電は、火力発電とともに昼夜を問わず安定的に発電できるベースロード電源です。原子力発電所の再稼働が進まないことや、再生可能エネルギーの普及などの影響で火力発電所が減ったことは電力需給ひっ迫の要因の一つとして論じられています。欧州議会は7月に原子力とガスを持続可能なエネルギーと認定し民間投資を集め、気候変動やエネルギー供給の対策を進める方針を示しました。日本政府は「経済財政運営と改革の基本方針2022」で、安定的なベースロード電源である原子力発電について「安全優先の再稼働」を強調しています。
〇電力需要そのものを減らす
日本の住宅のうち、現行の断熱基準を満たすものは10%しかなく、32%は無断熱というデータがあります。電力需要自体を減らすために、住宅断熱も有効な方法です。
日本は2050年カーボンニュートラルの目標へと歩みを進めています。脱炭素もエネルギーの安定供給がなければ取り組めません。災害や急激な気候変動にも対応可能な安定した電力供給に向けて、幅広い議論が必要です。
ワンポイント情報
◆世界各国で頻発する電力需給ひっ迫とエネルギー価格高騰◆
2021年2月にアメリカ・テキサス州において寒波により多くのガス供給設備が停止し、大規模な輪番停電が実施され、夏にはカリフォルニア州で猛暑による節電要請が出されました。また、ルイジアナ州ではハリケーン「アイダ」の影響で大規模停電が発生しています。
ブラジルでも干ばつによる渇水が原因で節電要請が出され、ヨーロッパでは、ギリシャやトルコで熱波による停電や節電要請が出されました。南半球ニュージーランドでは寒波による輪番停電が発生。中国では春先から石炭不足による電力供給制限が発生し、インドでも10月に石炭不足による電力危機が起こっています。
ヨーロッパでは9月頃から天然ガス価格高騰による卸電力価格が高まり、小売会社撤退や電気料金の急激な上昇が続き、2022年2月ロシアによるウクライナ侵略により、エネルギー価格の高騰が続いています。8月には中国・四川省などで猛暑による渇水が発生し、電力需給ひっ迫を引き起こしました。アメリカ・カルフォルニア州で猛暑による電力需給ひっ迫で非常事態宣言を発表。フロリダ州ではハリケーン「イアン」の影響で、最大250万軒以上が停電しています。12月にはフランスで大寒波による電力需給ひっ迫が発生し、周辺国から供給を受けています。
出典:資源エネルギー庁「令和3年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2022)」などより作成
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