2020年1月1日現在、世界の31の国と地域で437基の原子力発電所が運転され、
39の国と地域で59基が建設中、82基が計画中となっています。
(出典:日本原子力産業協会「世界の原子力発電開発の動向」)
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世界の原子力発電の動向
世界初の原子力発電は、1951年にアメリカで始まりました。その後、1970年代に起こった二度の石油危機を契機として、世界各国で原子力発電の開発が積極的に進められましたが、1980年代後半からは世界的に原子力発電設備容量の伸びが低くなりました。
しかし、有限な資源である石油などの化石燃料の獲得を巡る国際競争の緩和や地球温暖化対策のため、特にアジア地域では、原子力発電設備容量が着実に増加してきました。そうしたなか、2011年3月に東北地方太平洋沖地震が発生し、福島第一原子力発電所で事故が起こりました。事故後は安全性向上対策などのため全国の原子力発電所が運転を停止したことから、日本の原子力発電電力量が減り、アジア地域全体の原子力発電電力量も減少しましたが、2014年に再び増加に転じています。
一方、アメリカやヨーロッパでは、原子力発電所の新規建設が少ないものの、出力増強や設備利用率の向上によって、発電電力量は増加傾向となっています。設備利用率で見ると、例えば、アメリカでは1979年に起こったスリーマイル島原子力発電所の事故後、自主的な安全性向上の取り組みによって官民で設備利用率向上を進めた結果、近年の設備利用率は9割前後で推移しています。
日本では東日本大震災後、原子力発電所は長期間、運転を停止しており、2015年8月に新規制基準施行後初めて再稼働した九州電力(株)川内原子力発電所1号機を始め、2020年11月までに9基が再稼働したものの、設備利用率は低迷したままです。
また、エネルギー需要が急増する新興国を中心に、原子力発電所の新規導入や増設の検討が進められています。
■世界の原子力発電電力量の推移
出典:経済産業省 資源エネルギー庁資料より作成
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原子力発電の利用国の特徴
世界では、原子力発電を推進する国がある一方で、段階的に廃止する方針を掲げている国もあります。また、今後、新規導入や増設の検討を行っている国もあります。
人口が多い国は、潜在的な電力需要が大きく、GDPが大きい国は、実際の電力需要が大きくなっています。また、一次エネルギー供給量が多い国は、エネルギー安全保障上、複数の電源の確保が求められます。
このように、各国のエネルギーを取り巻く状況によって、下表(<世界各国の原子力政策>)のように掲げている原子力政策は異なります。
■人口・GDP・一次エネルギー供給
出典: 人口:世界銀行 GDP:IMF 一次エネルギー供給:IEA
<世界各国の原子力政策>
運転中の基数 2020年1月現在/総発電電力量に占める原子力の比率 2019年実績値
アメリカ
運転中の基数 : 96基 / 総発電電力量に占める原子力の比率 : 19.7%
トランプ政権になっても原子力発電を重視し、運転中の基数・出力とも世界一の規模。2019年10月時点で90基が運転期間60年への延長認可。また、認可を受ければ80年の運転も可能となり、2019年12月に初めて2基が認可を受け、さらに2020年3月にも2基が運転期間延長認可。現在、4基が審査中。他方で、経済性の観点から2012年~2019年に8基が閉鎖され、11基の閉鎖も決定済み。この状況を鑑みて、温室効果ガス削減や地元経済への影響の観点から、複数の州が原子力発電所の運転継続を支援する制度を導入。
イギリス
運転中の基数 : 15基 / 総発電電力量に占める原子力の比率 : 15.6%
2007年のエネルギー白書で、原子力発電所の新規建設に向けた政策面での支援方針を表明し、体制整備やスケジュールなどを定め、2011年7月に新設候補サイトを示す国家政策声明書を承認。2013年12月に成立したエネルギー法では、原子力発電への適用を含む低炭素発電電力の固定価格買取制度の実施を規定。2020年1月現在、3か所の新設計画が進行中。
フランス
運転中の基数 : 58基 / 総発電電力量に占める原子力の比率 : 70.6%
2014年6月、オランド大統領率いる社会党政権が、原子力による発電比率を2025年までに50%まで引き下げ、現行の発電容量を上限とする内容の「エネルギー転換法案」を発表し、2015年7月に正式に法律として成立。その後、マクロン大統領政権下で、2017年11月、原子力比率引き下げの目標年次の延期が決定され、2019年11月、目標時期を2035年に延期する方針を表明。
ドイツ
運転中の基数 : 6基 / 総発電電力量に占める原子力の比率 : 12.4%
2002年に成立した改正原子力法により、19基の原子炉を2020年頃までに全廃するとしたが、2009年の連邦議会総選挙で「脱原子力政策」が見直され、翌年、運転延長を認める法案を閣議決定。しかし、福島第一原子力発電所事故を受け、連立政権は脱原子力を推進する立場へ転換。17基を段階的に廃止する法案が2011年8月1日に施行。これにより8基が即時閉鎖され、残り9基は2022年までに順次閉鎖される予定。
そのほかのヨーロッパ
スウェーデン
1980年の国民投票により原子力発電所を段階的に廃止することとし、2005年5月までに2基を閉鎖。その後、見直しの機運が高まり、2010年6月、既設原子炉のリプレースを可能とする法案を議会で可決。2014年10月に発足した新政権は、2040年までに電力のすべてを再生可能エネルギーでまかなうことを目標としたが、その後、2040年は原子力発電所の全廃の期限ではないことが確認され、低炭素化における原子力発電の重要性を認める形に。
ベルギー
2003年1月、脱原子力発電法が成立し、7基の原子炉を建設から40年経たものから順次閉鎖すると決定。2012年7月には、2基の2015年の廃炉を決定する一方で、1基の運転期間を10年延長(2025年まで運転)することも決定。しかし、2014年10月に発足した新政権は、廃炉と決めた2基の運転期間延長も認める方針を表明。方針は二転三転し、2018年3月、2025年までにすべての原子力発電所を停止するエネルギー戦略を発表。
チェコ
2015年5月、2040年時点における原子力比率を約49%まで高めることを含む新たなエネルギー政策を承認。2019年7月、バビシュ首相が、既存の原子力発電所での新規原子炉を2036年までに完成させる方針を表明。
リトアニア
2012年、国民投票の結果や政権交代から原子力発電所建設計画が停滞するが、2014年3月にウクライナ情勢を受けて、建設計画が合意された。しかし、2016年11月に政府は「費用対効果が高くなるか、エネルギー安全保障上必要となるまで計画を凍結」すると発表。
中国
運転中の基数 : 47基
総発電電力量に占める原子力の比率 : 4.9%
2007年に、2020年までに原子力発電所設備容量を4000万kWまで拡大する計画を表明。2011年3月には、安全確保を前提条件としてより効率的な原子力開発を行う方針を示し、2013年1月に公表した計画で、2020年の設備容量を5800万kW(2013年時点では1500万kW)とする目標を提示。2018年に7基が営業運転を開始したことで日本を抜いて世界第3位の原子力発電大国となり、2019年には3基が営業運転を開始。また、2018年8月には、10年後に世界の原子力標準化で中国が主導的な役割を果たすとの目標を表明。
台湾
運転中の基数 : 4基
総発電電力量に占める原子力の比率 : 13.4%
2005年に、既存の原子力発電の運転と建設プロジェクトの継続を確認したが、それ以降、新規建設は行わず、既存炉が40年間運転した後、2018〜2024年に廃炉にするとの方針を表明。2017年1月には、議会が2025年までにすべての原子力発電所を停止することを含んだ電気事業法の改正案を可決。しかし、同年8月、台湾各地で大規模な停電が発生し、産業界が安定的な電力供給を求め、2018年11月、公民投票の結果、この条文を削除。
韓国
運転中の基数 : 24基
総発電電力量に占める原子力の比率 : 26.2%
2035年の原子力発電比率を29%とする計画だったが、2017年5月に誕生した文政権は、脱原子力政策への転換を宣言し、ロードマップを閣議決定。建設許可が既に下りていた2基については、建設準備作業を再開するとした一方、それ以降の新設計画を全面白紙化し、運転期間延長も認めないことを表明。2017年12月に閣議決定された計画では、2030年の原子力の比率を23.9%まで削減する方針を出し、2018年6月、1基の早期閉鎖と4基の建設計画の中止を決定。さらに、2019年6月に閣議決定された計画では、原子力発電を段階的に縮小する方針を示したが、同年8月に1基の営業運転を開始し、設備容量は過去最大に。
インド
運転中の基数 : 22基
総発電電力量に占める原子力の比率 : 3.2%
2007年7月、アメリカとの間で民生用原子力協力に関する二国間協定交渉が実質合意。原子力供給国グループが核兵器不拡散条約非締約国のインドと例外的に原子力協力を行うことを決定し、国際原子力機関による保障措置協定の承認などを経て、2008年10月に発効。その後、ロシア、フランス、カザフスタン、ナミビア、アルゼンチン、カナダ、イギリス、韓国、日本などとも民生分野で原子力協力協定を締結。2018年3月には、原子力の設備容量を2031年までに2248万kWとする見通しを表明。
ロシア
運転中の基数 : 33基
総発電電力量に占める原子力の比率 : 19.7%
1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故以降、新規建設が途絶えていたが、その後は積極的に推進し、2001年に新たな原子力発電所が運転を開始。現在、8基を建設中、16基を計画中。2009年11月、政府に承認された「長期エネルギー戦略(2030年戦略)」では、原子力の発電比率を2008年の16%弱から2030年には20%近くまで引き上げ、発電量を2.2〜2.7倍に増大することを想定。また、原子力の輸出も進めており、2020年1月現在、海外で36の建設プロジェクトが進行中。
出典:資源エネルギー庁・(一社)日本原子力産業協会資料より作成