世界のエネルギーに関する動き
ポイント
- 国際エネルギー情勢は引き続き不安定で先行き不透明
- 気候変動対策強化と脱炭素化の取り組みは待ったなし
- エネルギー安全保障と脱炭素化の両立は容易ならざる挑戦
- アメリカ・トランプ政権(2期目)の下での世界の分断の行方が世界の注目点
- 新たな情報革命で増大する電力需要への対応が世界の課題に
2022年のロシアによるウクライナ侵攻で国際エネルギー情勢は不安定化し、エネルギー価格は著しく高騰しました。エネルギー価格高騰は暮らしや経済を直撃し、世界はエネルギー安全保障の重要性を再認識しました。
その後、エネルギー価格は落ち着きを取り戻したものの、最近でも原油価格は1バレル当たり70~80ドル程度で推移するなど、歴史的に見て高い水準にとどまっています。イスラエルとイランを巡る情勢が不安定化するなど、中東情勢の先行きに予断は許されません。アメリカではトランプ大統領が再登板することになり、その対外・安全保障政策の世界への影響、エネルギー地政学への影響が注目されます。
他方、世界的な異常気象頻発で、気候変動対策強化を求める声が高まっています。気温上昇を1.5℃に抑え脱炭素化をさらに促進すべきとの意見も強く、その取り組み強化も待ったなしです。脱炭素化とエネルギー安全保障の両立が必要ですが、それをエネルギーコストの上昇を抑えながら実施していかねばなりません。
トランプ政権2期目を迎え、世界の分断がどうなるのか、アメリカと中国の対立や西側と中国やロシアの対立がどう動くのかが注目されます。分断と対立の世界では、経済安全保障が重視され、エネルギーや重要鉱物などの戦略物資をできるだけ国産化する、あるいは同盟国などの間で供給チェーンを構築することなどが重視されるようになっています。
新たなエネルギー問題として、生成AIやデータセンター拡大による電力需要増大への対応が関心事項になっています。増大する電力需要を安定的に、手頃な値段で、かつゼロエミッション電源で賄うことが必要になっており、この点でも原子力への期待が高まっています。
複雑化する国際情勢のなかで、エネルギー安全保障と脱炭素化の両立を図ることは容易でありません。各国はそれぞれの国情を踏まえて、エネルギーベストミックスの追求などの最善のエネルギー政策を追求していくことが求められています。
監修者からのメッセージ
ウクライナ危機発生で国際エネルギー情勢が一気に不安定化し、その後も中東情勢流動化が進むなど、国際エネルギー情勢に予断は許されません。他方、世界的に異常気象が頻発するなか、気候変動対策強化のため脱炭素化の取り組みも待ったなしです。エネルギー安全保障の強化と脱炭素化の両立を図ることが求められている今日、私たちを取り巻く世界では分断が進み、自国第一主義が台頭するなど、複雑で難しい国際情勢に直面するようになっています。
こうしたなか、日本でも世界でも、それぞれの国情に応じて、コスト負担の抑制を図りながらエネルギー安全保障と脱炭素化の両立に向けたエネルギー政策の追求が重要になっています。また新たな情報革命進展の下で電力需要が大きく増加する可能性が浮上し、電力安定供給に高い関心が寄せられています。こうしたなか、安全性を確保し、国民理解を得つつ、原子力の有効活用を図ることはますます重要になりつつあるといえるでしょう。

小山 堅
一般財団法人 日本エネルギー経済研究所 専務理事 首席研究員
世界のエネルギー情勢と日本の課題について
ポイント
- 事業者が投資決定を行えるようにするための具体的施策
- 設置変更許可に向けて審査中、あるいは未申請の原子炉の審査効率化
- 原子力施設立地地域の理解促進と産業振興
エネルギーをめぐる世界情勢は年々変化しています。2015年のパリ協定以降、多くの国が野心的な温室効果ガス排出削減目標を掲げてきました。2021年以降は世界的に化石燃料価格の高騰が発生し、エネルギーを安価に、かつ安定的に供給できることに重点が置かれるようになりました。とりわけ天然ガスの供給は2022年2月、ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから一層不安定化しています。そして、直近では中東情勢が混迷を極めています。気候変動対策に加え、エネルギー安全保障の観点でも、化石燃料からのエネルギー転換が必要とされている状況といえるでしょう。日本も例外ではありません。
単一であらゆる問題を解決できるエネルギー源が存在しない以上、エネルギー転換を実現するうえでは、利用可能なあらゆるオプションを活用していくことが重要となります。他の多くの国と同様に、日本でも再生可能エネルギーは脱炭素化の主力を担うと考えられますが、その中心である太陽光や風力発電は変動電源であり、利用量が増えてくるにしたがって、電力システム全体を安定させるための対策が必要になります。これに対して原子力は安定電源ですが、日本では福島第一原子力発電所事故後に停止した原子炉の再稼働に時間を要しています。2050年という将来を考えるなら、新しい原子炉の建設を進めるのかについても、具体的な議論を早急に進めることが求められます。再稼働にしても新設にしても、進めるなら安全性の向上と社会的な信頼の回復は大前提です。
化石燃料からの転換を本気で目指すのであれば、電力部門以外も含めて、エネルギーシステム全体を対象とした取り組みを進めなければなりません。この点については、非化石燃料由来の水素やアンモニアの調達コストが低下し、大規模な利用が可能になるかが重要となってきます。温室効果ガス排出量ネットゼロ実現のためには、どうしても避けられない排出量を相殺するネガティブ排出技術も必要になるでしょう。こうしたさまざまなオプションに対して、バランスよく投資を誘引できるかが日本のエネルギー政策の重要課題だと考えます。
監修者からのメッセージ
前述の通り、気候変動対策やウクライナ侵攻、中東情勢の緊迫化など、エネルギー情勢にかかわる重要な出来事が近年立て続けに起こっています。さらに2024年にはデータセンターや生成AIといった新たな要因の出現によって、将来的な電力需要は今まで想定されていた以上に増加していくのではないか、という可能性が国内外で指摘されるようになってきました。これから我々がエネルギーと、あるいは原子力とどのように向き合っていくのかを考えていくうえでは、こうした最新の動きを把握したうえで議論を進めることが欠かせません。本冊子がその一助となることを切に望みます。

木村 謙仁
一般財団法人 日本エネルギー経済研究所 電力ユニット
原子力グループ兼研究戦略ユニット 研究戦略グループ主任研究員