2020年は、新型コロナウイルスの感染拡大が世界のエネルギー情勢に大きな影響を及ぼしました。 世界経済の大きな落ち込みや、都市封鎖による交通関連のエネルギー需要の低下などによって、前例の無いような規模でエネルギー供給過剰の状況が発生し、石油を中心に市場での取引価格が大幅に下落しました。
国際エネルギー機関(IEA)の分析では、2020年の世界の二酸化炭素の排出量は8%減少して、10年前の水準になるとしています。新型コロナウイルスによる感染拡大により、世界の人々の行動様式が変容し、経済活動のあり方に影響を及ぼしている状況のなかで、今後の各国の温室効果ガスの排出削減量や、脱炭素化の取り組みにどのような影響を与えていくのかが注目されています。
2020年10月の新内閣発足後初の所信表明演説では、菅首相は脱炭素社会に向けて、「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロとする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と表明しました。日本の温室効果ガスの排出量のうち、エネルギー起源の二酸化炭素の排出量が占める割合は、約9割となっており、温室効果ガス排出の大幅削減を実現するうえで、エネルギー部門における対応は極めて重要となっています。
日本のエネルギー政策は、安全性(Safety)を前提に、「エネルギーの安定供給(Energy Security)」、「経済効率性の向上(Economic Efficiency)」、「環境への適合(Environment)」を図ることを基本的な視点(S+3E)とし、バランスのとれたエネルギーミックスを構築していくことが重要とされています。
今後の原子力政策の基本的な方針は、脱炭素化の選択肢の一つである原子力利用は不可欠であり、依存度を低減しつつ、設備利用率の向上と40年超運転を含め、安全最優先で再稼働を進めることとしています。また、「原子力産業イノベーション」を掲げ、軽水炉の安全性向上の技術開発・導入促進、また高速炉やSMR(小型モジュール炉)などの革新的原子力技術開発が求められています。さらに、持続的なバックエンドシステムの確立を目指し、中間貯蔵や再処理、プルトニウム利用、放射性廃棄物の最終処分に至る原子力利用システムの確立に向けて前進することとしています。
本冊子では、日本のエネルギー事情と原子力政策、原子力利用の経緯や現状、放射線防護、原子力施設の規制と安全性向上対策、原子力防災などを総合的に紹介しています。さらに、原子力を巡る最新情報についても取りまとめています。
原子力の学習や研修会などで、本冊子を活用していただければ幸いです。なお、この冊子の改訂にあたっては、下記の専門家に監修いただきました。
2020年11月
一般財団法人 日本原子力文化財団
※本サイトは2020年11月発行の「原子力総合パンフレット2020年度版」を基に作成したもので、記載内容は2020年11月末時点の情報となっています。
【監修】
■全編
山口 彰(東京大学大学院工学系研究科 原子力専攻 教授)
■1章「日本のエネルギー事情と原子力政策」
小山 堅(一般財団法人 日本エネルギー経済研究所 専務理事 首席研究員)
村上 朋子(一般財団法人 日本エネルギー経済研究所 戦略研究ユニット 原子力グループ グループマネージャー 研究主幹)
■3章「放射線と放射線防護」
松本 義久(東京工業大学 科学技術創成研究院 先導原子力研究所 准教授)
■5章「原子力防災」
安田 仲宏(福井大学附属国際原子力工学研究所 教授)