このページの要約
- 避難指示区域は順次解除が進み、2020年3月には帰還困難区域以外のすべての地域の避難指示が解除されました。帰還困難区域においても、特定復興再生拠点区域の避難指示が2023年5月までにすべて解除。2023年6月には帰還困難区域のうち、避難指示解除による住民の帰還および帰還後の住民の生活再建を目指すために、特定帰還居住区域が設けられました。
- 除染が進み、福島県の空間線量率は2011年に比べて大幅に低下しています。国連科学委員会(UNSCEAR)は、福島第一原子力発電所の事故による放射線被ばくについて、甲状腺がんが多数発生すると考える必要はないなどの評価を公表しています。WHOの健康評価でも、がんの発生率が増加する可能性は低いとしています。
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原子力災害にともなう避難指示区域等の状況
避難指示区域は順次解除が進み、2020年3月には帰還困難区域以外のすべての地域の避難指示が解除されました。帰還困難区域においても、再生計画に基づき復興・再生が進められ、住民の帰還および移住等を目指すために設けられた特定復興再生拠点区域の避難指示が2023年5月までにすべて解除されました。2023年6月に福島復興再生特措法が改正され、帰還困難区域のうち、避難指示解除による住民の帰還および帰還後の住民の生活再建を目指すために、特定帰還居住区域が設けられました。
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住民の帰還
事故で放出・拡散された放射性物質による被ばくから住民を防護するため、国から避難指示が発出され、多くの住民が避難を余儀なくされました。福島県の避難者は2012年5月の約16万人をピークに減少し、現在は約2万6千人の方々が避難を続けています。
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周辺環境への放射線影響
福島第一原子力発電所の事故では、主に放射性ヨウ素や放射性セシウムが環境中に放出されました。これらの放射性物質は主に2011年3月12日~15日にかけて放出され、風に乗って広まり、雨によって地上に降下しました。
生活する空間で受ける放射線の量を減らすため、除染(放射性物質の除去、土で覆う等)が行われ、2018年3月までに帰還困難区域を除く地域の除染が完了しています。帰還困難区域のうち、特定復興再生拠点区域では除染がおおむね終了し、2023年12月からは大熊町と双葉町、2024年6月からは浪江町の特定帰還居住区域の除染が始まっています。除染によって除去した土壌等については、2015年3月より中間貯蔵施設へ搬出され、2024年10月末で約1,396万㎥が輸送され、おおむね輸送が完了しました。国、福島県、大熊町、双葉町で締結した安全協定に基づき、現地確認や環境モニタリングを行い、安全・安心を確保しています。なお、中間貯蔵施設で一定期間保管された除去土壌等は、貯蔵開始から30年以内(2045年3月まで)に福島県外で最終処分を行うことが法律(中間貯蔵・環境安全事業株式会社法)で定められています。
このように除染が進み、福島県の空間線量率は2011年4月時点に比べて大幅に低下しています。
■福島県内の空間放射線量の推移
※国土地理院「基盤地図情報数値標高モデル(10mメッシュ)」、国土交通省国土政策局「国土数値情報(行政区界、道路)」を使用し作成。
出典:ふくしま復興のあゆみ(第40号)
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住民の被ばくと健康影響に対する評価
国際的な専門家集団の国連科学委員会(UNSCEAR)は、福島第一原子力発電所の事故による放射線被ばくについての評価を公表しています。
●福島県の成人住民が、事故発生から1年の間に受けた放射線の推計量は、約1~10ミリシーベルト。特に放射線の影響を受けやすい1歳児では、成人の約2倍。
●甲状腺への影響については、成人が最大35ミリグレイ、1歳児が約80ミリグレイと推計。チョルノービリ事故による被ばくと比較し、甲状腺がんが多数発生すると考える必要はない。
●胎児や幼少期・小児期に被ばくした人の白血病や乳がんの発生数の変化は、今のところ不確かさの範囲にとどまること、また、被ばくした人の子孫に遺伝性の影響が増加することはない。
このほか、世界保健機関(WHO、World Health Organaization)の健康評価でも、がんの発生率が増加する可能性は低いとしています。また、日本学術会議では、生後0~18歳の子どもにスポットを当て、これまでに発表されている放射線の影響や線量評価に関する科学的知見の妥当性を確認しています。
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食品中の放射性物質の規制
福島第一原子力発電所の事故を受け、厚生労働省は、食品の安全と安心を確保するための基準値(食品中の放射性物質に係る基準値)を設定しました。
自治体では、この基準値をもとに、食品の検査が行われています。検査状況は、厚生労働省や各自治体ホームページなどで公開されています。
■食品1キログラムあたりの放射性セシウムの基準値(単位:ベクレル/キログラム)
※基準値は、食品や飲料水から受ける線量を一定レベル以下にするためのものであり、安全と危険の境目ではありません。
また、各国で食品の摂取量や放射性物質を含む食品の割合の仮定値等の影響を考慮してあり、数値だけを比べることはできません。
出典:厚生労働省「食品中の放射性物質の新たな基準値について」などより作成
ワンポイント情報
◆トリチウムとは◆
トリチウムはベータ線を放出する水素の仲間(同位体)で、原子力発電による核分裂や、リチウム6と中性子の反応などで発生しますが、自然界では宇宙線と大気中の窒素、酸素が反応することで生じ、主に水の状態で存在しています(降雨中に1~3ベクレル/リットル)。
トリチウムを含む水は、水と同じように新陳代謝などによって排出されるため、人間の体や魚、貝などの海産物に蓄積されることはほとんどなく、生物学的半減期は約10日です。5~6%は有機物に取り込まれ、その生物学的半減期は短いもので40日程度、長いもので1年程度とされています。1ベクレルのトリチウムを飲み込んだ場合の被ばく量は、1ベクレルのセシウム137に比べて影響の度合いは、乳児で300分の1、成人で700分の1程度です。トリチウムから出るベータ線のエネルギーは非常に小さく、他の放射性物質と比べても人体への影響は非常に小さいと考えられています。
またトリチウムは、国内外の原子力発電所や再処理施設においても、各国・地域の法令を遵守したうえで、液体廃棄物として海洋や河川、大気中に放出されていますが、トリチウムによる人体への影響はこれまで確認されていません。
■世界の原子力発電所などからのトリチウム年間排出量
※日本のBWR平均値/PWR平均値:2008年から2010年の日本国内の各原子力発電所(サイト単位)の排出量の平均値を算出し、その最小値と最大値を示している。
〈参考〉1兆ベクレル≒約0.019g(トリチウム水換算)
出典:英国:Radioactivity in Food and the Environment, 2021 カナダ:CNSC, Radionuclide Release Datasets その他の国・地域:電力事業者の報告書より作成