1

原子力災害の特徴

原子力災害とは、原子力施設の事故により、放射性物質が放出され、原子力施設の周辺地域の住民や環境などに直接または間接的に被害を与えることです。
地震や風水害、火災などの一般災害と異なり、原子力災害は、人間の五感では感じることができない放射性物質や放射線に関して対策を講じる必要があります。
そのため、国や地方公共団体などは、モニタリングポストなどで測定された大気中の放射線量などの実測値に基づき、住民の被ばくを避けるためにとる行動(防護措置)の実施を判断していきます。
なお、原子力災害時の住民への情報連絡、屋内退避や避難、被災者の生活に対する支援などは、一般災害と共通する点が多いため、原子力災害は一般的な災害対策と連携して対応していくことが重要です。

2

原子力災害対策指針

原子力災害時、国民の生命および身体の安全を確保することが最も重要です。そのため、原子力規制委員会が定める原子力災害対策指針では、緊急事態における原子力施設周辺の住民などに対する放射線の影響を最小限に抑えるための防護措置などが示されています。
また、事業者や国、地方公共団体などは、平常時から緊急時の原子力災害対策に関する計画を整備し、訓練することが求められています。原子力災害対策指針では、その計画の策定などで求められる科学的、客観的な判断を支援するため、原子力災害対策に関する専門的、技術的な事項について定められています。

3

地域防災計画の作成

地域防災計画は、災害対策基本法において、地域の実情をよく把握している地方公共団体で作成することとされています。一般の災害と同様に原子力災害が起きたときも、地方公共団体だけでなく、国や公共機関、地域住民、学校、病院などがそれぞれの役割を担うことが不可欠です。とくに、原子力災害については、原子力災害対策指針に基づき、原子力災害対策重点区域に設定された都道府県および市町村(原子力災害対策重点区域と緊急事態の区分 参照)で、原子力施設を中心にした広域避難計画の作成や防災資材の整備を行うこととされています。
国は、地域防災計画(原子力災害対策編)のひな型として、原子力災害対策マニュアルを各地方公共団体に提供しています。2021年3月末現在、対策市町村である21道府県、135市町村すべての地域で地域防災計画が策定済みとなっています。今後、自治体、住民ともに地域防災計画を定着させることが大切です。
そして、国や地方公共団体などが策定した原子力災害に関する各種計画やマニュアルなどに基づく活動を実施し、緊急事態対応を確認するため、国や地方公共団体、事業者などの関係者が共同して原子力総合防災訓練を実施しています。
全国共通の課題として、要支援者の安全な避難や移動手段の確保、複合災害時の避難、安定ヨウ素剤の事前配布、避難の受け入れ体制の整備、避難退域時検査や除染実施体制の整備などが挙げられています。今後も国と地方公共団体が一体となって地域の防災計画や避難計画などの具体化・充実化をはかっていくことになります。

専門情報:日本原子力研究開発機構「47都道府県の地域防災計画における原子力防災について」

地域防災計画・避難計画の策定と支援体制

地域防災計画・避難計画の策定と支援体制

出典:内閣府ホームページを参考に作成

4

原子力災害対策重点区域

原子力災害時に影響が及ぶ可能性がある区域には、重点的に原子力災害特有の対策を講じておく必要があるため、原子力災害対策重点区域を定めています。原子力災害対策指針では、原子力施設からの距離に応じて2種類の区域が定められています。

予防的防護措置を準備する区域:PAZ

原子力発電所から半径おおむね5kmの区域

緊急防護措置を準備する区域:UPZ

原子力発電所から半径おおむね5~30kmの区域

国際原子力機関(IAEA)では、PAZの範囲は3~5km、特に5kmを推奨しています。また、UPZは5~30kmを推奨しています。これは、放射線による影響をはじめ、1986年に旧ソ連のチェルノブイリ原子力発電所で起こった事故の事例や、屋内退避や避難を速やかに行える距離であるかどうかなど、対策の実行可能性を踏まえて提案されました。日本の原子力災害対策指針では、この国際原子力機関の基準を踏まえ、さらに福島第一原子力発電所事故で実際に影響が及んだ範囲なども考慮して、原子力災害対策重点区域の範囲が設定されています。
PAZは、急速に進展する事故のときに、まずは、住民の放射線による確定的影響を回避することを念頭においています。放射性物質が環境へ放出される前の初期の段階に応じて、住民の避難や安定ヨウ素剤の服用などの予防的防護措置を準備する区域としています。
UPZは、緊急事態のときに、放射線の被ばくによる確率的影響のリスクを最小限に抑えるため、屋内退避や避難、安定ヨウ素剤の服用などの防護措置を準備することとしています。

原子力災害対策重点区域

原子力災害対策重点区域

出典:原子力規制委員会「原子力災害対策指針」より作成

関連情報(詳細):エネ百科「原子力・エネルギー図面集」

関連情報(詳細):エネ百科「PAZ、UPZに含まれる市長村」

  • 関連情報(詳細):
    「住民の行動と避難退域時検査

5

オフサイトセンターの役割

原子力災害が起きた場合には、オフサイトセンターに現地対策本部が設置され、国、地方公共団体、事業者などの関係者が一体となり、モニタリング、被ばく医療、避難、住民への情報発信などを迅速に行う役割を担うことになります。
東北地方太平洋沖地震とそれにともなう津波、福島第一原子力発電所事故の経緯から、地震と津波などが同時に発生する複合災害に備えるため、災害に強い通信インフラの設備や電源などの確保とともに、利便性を考慮しながらも基本原則として、緊急時防護措置を準備する区域(UPZ)圏内(原子力施設からおおむね5〜30km圏内)にオフサイトセンターを設置すること、また、代替オフサイトセンターの検討などが求められています。

6

原子力防災訓練と啓発活動

福島第一原子力発電所事故の教訓と経験を踏まえて見直された原子力防災体制は、訓練や新たな教訓を導入することで不断に改善が図られることが重要です。そして、改善された計画を周知し、地域でさらに改善が図られることが大事です。地震のときの初動のように「頭を隠す」「火元に注意する」行動を住民自らがとれるように、原子力発電所からの距離によって(居住地域によって)住民がとるべき対応が異なること、放射線から身を守るには「屋内退避」「避難」が必要であることなどを住民が思い浮かべられるように活動を進めていくことが求められます。

原子力発電所のPAZ、UPZに含まれる地域

次へ
前へ
ページトップ
日本のエネルギー選択の歴史と原子力

日本のエネルギー選択の歴史と原子力

エネルギーミックスの重要性

エネルギーミックスの重要性

日本のエネルギー政策〜各電源の位置づけと特徴〜

日本のエネルギー政策
〜各電源の位置づけと特徴〜

日本のエネルギー政策〜2030年、2050年に向けた方針〜

日本のエネルギー政策
〜2030年、2050年に向けた方針〜

エネルギーの安定供給の確保

エネルギーの安定供給の確保

エネルギーの経済効率性と価格安定

エネルギーの経済効率性と価格安定

環境への適合

環境への適合

原子力の安定的な利用に向けて〜再稼働、核燃料サイクル、使用済燃料の中間貯蔵〜

原子力の安定的な利用に向けて
〜再稼働、核燃料サイクル、使用済燃料の中間貯蔵〜

原子力の安定的な利用に向けて〜高レベル放射性廃棄物〜

原子力の安定的な利用に向けて
〜高レベル放射性廃棄物〜

国際的な原子力平和利用と核の拡散防止への貢献

国際的な原子力平和利用と核の拡散防止への貢献

〈参考〉世界の原子力発電の状況

〈参考〉世界の原子力発電の状況

原子力開発の歴史

原子力開発の歴史

日本の原子力施設の状況

日本の原子力施設の状況

原子力発電のしくみ

原子力発電のしくみ

原子炉の種類

原子炉の種類

原子力発電所の構成

原子力発電所の構成

原子力発電の特徴

原子力発電の特徴

原子力発電所の廃止措置と解体廃棄物

原子力発電所の廃止措置と解体廃棄物

核燃料サイクル

核燃料サイクル

再処理と使用済燃料の中間貯蔵

再処理と使用済燃料の中間貯蔵

高レベル放射性廃棄物

高レベル放射性廃棄物

低レベル放射性廃棄物

低レベル放射性廃棄物

原子力のイノベーション〜革新的な原子力技術への挑戦〜

原子力のイノベーション
〜革新的な原子力技術への挑戦〜

暮らしの中で活躍する放射線

暮らしの中で活躍する放射線

放射線と放射能の性質

放射線と放射能の性質

放射能・放射線の単位と測定

放射能・放射線の単位と測定

被ばくと健康影響

被ばくと健康影響

外部被ばくと内部被ばく

外部被ばくと内部被ばく

身のまわりの放射線

身のまわりの放射線

放射線被ばくによるリスク低減とモニタリング

放射線被ばくによるリスク低減とモニタリング

原子力発電所の規制と検査制度

原子力発電所の規制と検査制度

新規制基準を踏まえた原子力施設の安全確保

新規制基準を踏まえた原子力施設の安全確保

原子力発電所の地震の揺れや津波・浸水への対策

原子力発電所の地震の揺れや津波・浸水への対策

自然現象や重大事故への対策

自然現象や重大事故への対策

原子力施設のさらなる安全性向上に向けた対策

原子力施設のさらなる安全性向上に向けた対策

自主的・継続的な安全性向上への取り組み

自主的・継続的な安全性向上への取り組み

原子力防災の概要

原子力防災の概要

原子力災害対策と緊急事態の区分

原子力災害対策と緊急事態の区分

初期対応段階での防護措置

初期対応段階での防護措置

被ばくを避けるためにとる行動(防護措置)

被ばくを避けるためにとる行動(防護措置)

平常時と原子力災害時の住民の行動

平常時と原子力災害時の住民の行動

廃炉への取り組み〜中長期ロードマップ、燃料デブリ〜

廃炉への取り組み
〜中長期ロードマップ、燃料デブリ〜

廃炉への取り組み〜汚染水対策、処理水の取り扱い〜

廃炉への取り組み
〜汚染水対策、処理水の取り扱い〜

周辺住民や飲食物への影響

周辺住民や飲食物への影響

原子力施設と法律

原子力施設と法律

原子力損害の賠償

原子力損害の賠償