このページの要約
- 原子力災害の住民の行動として、まずは、建物の気密性や遮へい効果によって、放射線の影響を減らすことができる屋内退避をすることが大切です。屋内退避のときの注意点として、ドアや窓をすべて閉め、エアコン(外気導入型)や換気扇などを止め、屋外からの空気を入れないようにします。
また、避難については、災害の状況に応じ、住民の自家用車やバス、公共交通機関が保有する車両、船舶、ヘリコプターなどのあらゆる手段を活用して避難することとなっています。避難のときの注意点として、放射性物質が体に付着したり、吸い込んだりすることを防ぐ服装(レインコートやマスクなど)を身につけることや、近隣の住民に声をかけ、できるだけまとまって避難するようにします。
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平常時の備え
地域防災計画(原子力災害対策編)などで、情報伝達に関する責任者や実施者が定められています。また、必要な設備を整備し、迅速かつ正確な情報伝達のしくみを構築することになっています。緊急時の通報連絡体制や緊急時モニタリング結果の解釈の仕方、避難経路・場所、医療機関の場所、防災活動の手順などの住民の避難に関する情報は、事前に住民に対して十分に周知を図ることとしています。
住民は原子力災害に備え、避難指示などが伝えられる手段や避難経路・場所などの情報を平時から確認しておくことが大切です。
住民の被ばくを避けるためにとる行動(防護措置)は、モニタリングポストなどで測定された大気中の放射線量などにより判断されます。緊急時に判断するためには、その地域での普段のモニタリング結果(空間放射線量)を知っておく必要があり、その空間線量と比較して判断する必要があります。
空間放射線量は、天候によっても異なるため注意が必要です。例えば、平時でも雨が降ると放射線量が高くなります。これは、大気中に存在する天然の放射性物質が雨で地表に落ち、この放射性物質が地表面に集められたことで、一時的に放射線量が高くなります。また、雪が積もると地表面からの放射線が遮られ、空間放射線量が低くなるため、天候によっても空間放射線量は変動します。このように、普段の天候なども踏まえた空間放射線量を知っておくことは、災害時に重要な判断をするための備えに繋がります。
■平常時の放射線量で確認すべきこと

出典:エネ百科「原子力防災シミュレーション」
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原子力災害時の住民の行動
自然災害と連動して原子力災害が発生した際は、まず、地震、津波、火災などの自然災害から身に迫る危険を回避することが重要です。その災害の情報を知り、危険の大きさを判断し、身の安全を確保します。そのうえで、原子力災害の規模や危険性に関する情報を得て、屋内退避や避難などの行動に移ります。
情報は、テレビやラジオ、インターネット、緊急速報メール、防災行政無線、広報車などを用いて住民へ繰り返し提供されます。一つの情報源に頼るのではなく、複数の情報源をチェックし、特に地方公共団体からの情報を確認することが大切です。
■避難先への避難イメージ
出典:こんな時どうする?原子力発電所で事故が起こったら〜紙上シミュレーション〜
■原子力災害時の住民の行動
屋内退避
壁や屋根などの遮へい物で外部被ばくを防ぐ効果と、放射性物質からの距離をとることで内部被ばくと汚染を防ぐ効果がある防護措置です。
原子力発電所の事故により放射性物質が放出された場合など、屋外で行動する方が被ばくの危険性が高まるおそれがあります。まずは、建物の気密性や遮へい効果によって放射線の影響を減らすことができる屋内退避をすることが大切です。自宅や最寄りの適切な施設に屋内退避することにより、避難時の混乱や事故を防ぐことにも繋がります。
また、PAZの住民のうち、長距離の避難により健康リスクが高まる方については、無理に避難をせず、屋内退避をすることにより、無理な避難による犠牲者が出るのを防ぐとともに、効果的に被ばくの低減を図ることができます。
避難
車やバスなどで放射線の影響を受けない場所まで移動し、放射性物質から距離をとることで被ばくや汚染を避ける防護措置です。
災害の状況に応じ、住民の自家用車やバス、公共交通機関が保有する車両、船舶、ヘリコプターなどのあらゆる手段を活用することとなっています。
主要な国道や県道を中心に、基本となる経路を設定しています。さらに、自然災害などにより避難経路が使用できない事態も想定し、あらかじめ複数の避難経路を設定することにしています。
PAZおよびUPZの住民の避難先は、避難者が居住していた地域コミュニティの維持に配慮し、可能な限り地区の分散を避けるように各地方公共団体の避難計画において設定されています。
屋内退避のときの注意点
- ●ドアや窓をすべて閉める。
- ●屋外から屋内へ入るときは、手洗い、うがい、着替えをする
- ●エアコン(外気導入型)や換気扇などを止め、屋外からの空気を入れない。
- ●屋外で着ていた衣服には、放射性物質が付着している可能性があるため、衣服を着替え、ビニール袋に保管し、ほかの衣服と区別する。
- ●食品には、ふたやラップをかけ、冷蔵庫に入れる。
- ●テレビやラジオ、広報車などからの新しい情報を待ち、次の指示があるまで外出は控える。
出典:こんな時どうする?原子力発電所で事故が起こったら〜紙上シミュレーション〜
避難のときの注意点
- ●避難時に携行する物を用意する。しばらく家を空けてもよいように、貴重品や日常生活に必要な物を携行する。(現金、通帳、印鑑などの貴重品、運転免許証、パスポートなどの身分証明書、着替え、懐中電灯、ラジオ、携帯電話(充電器)、薬、育児・介護用品、非常用飲料、飲料水、眼鏡、コンタクトレンズ、補聴器、生理用品など)
- ●放射性物質が体に付着したり、吸い込んだりすることを防ぐ服装(レインコート、マスクなど)を身につける。
- ●近隣の住民に声をかけ、できるだけまとまって避難する。
出典:こんな時どうする?原子力発電所で事故が起こったら〜紙上シミュレーション〜
ワンポイント情報
◆自然災害と原子力災害における「自助」「共助」「公助」について◆
自然災害への対応では、「自助」「共助」「公助」の順に重要性が語られます。まず、「自助」においては、行政や他者からの支援がすぐに届かないことが多いため、自分自身で身を守ることが重要です。次に、「共助」による近隣の人々との助け合いや地域コミュニティの支え合いが、災害の復旧期において大きな力を発揮します。そして、「公助」によって、個人や地域では対応が難しい広範囲かつ高度な対応が行われ、社会全体の安全を支えることが可能となります。例えば地震の場合、個人が「机の下に隠れる」などの初動を取ることで命を守ります。その後、近隣の人々と声を掛け合い、がれきの下から人を助け出したり、協力して避難所を運営したりします。さらに、行政の支援により、道路の啓開やがれきの除去、物資の配送・分配が行われます。
一方で、原子力災害を考えると、「公助」が住民の行動のトリガーとなることが特徴です。私たちは放射線を感じることができないため、異常を知らせる手段は行政からの情報伝達に依存します。その結果、原子力災害は「自助」や「共助」が自然災害ほど機能しにくい災害であると言えます。これが、学校での訓練や住民による自発的な防災訓練を難しくしている一因かもしれません。このような性質を踏まえ、自然災害以上に行政との情報伝達を重視する必要があります。複数の双方向情報伝達手段を事前に想定しておくことが重要です。また、住民の側では、普段の放射線量(空間線量率)に関心をもち、訓練などの機会を通じて異常に気づける力を養うことが求められます。こうした取り組みにより、屋内退避などの「自助」を意識し、近隣の人々と声を掛け合うことで「共助」につなげられる可能性があります。