このページの要約
- 緊急時における指揮所機能の確保に向けた緊急時対策所、航空機衝突などのテロ対策として、原子炉格納容器への注水機能や電源設備、通信連絡設備を備えた特定重大事故等対処施設が設置されています。また、福島第一原子力発電所の事故を教訓に、非常用の電源設備や冷却設備は互いに離れた場所に分散配置するなどの対策もとられています。
- 原子力発電所では、ハード面の対策に加え、事故時の対応力向上のため、緊急時通報連絡・代替給水・代替給電・放射性物質放出抑制・ガレキ撤去など訓練も定期的に実施され、ソフト面の対策も行われています。
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原子力発電所のさらなる安全性向上対策
【重大事故の対策拠点を整備】
緊急時における指揮所の機能を確保するため、現地対策本部の機能を維持する緊急時対策所が整備されています。
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緊急時対策所(外観)
写真提供:北海道電力(株)
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緊急時対策所(内観)
写真提供:北海道電力(株)
【テロ対策】
故意の航空機衝突などのテロを想定し、大規模な損壊で広範囲に設備が使えない事態でも原子炉を安全に停止する対策がとられています。そのために、原子炉格納容器への注水機能や電源設備、通信連絡設備などに加え、さらなるバックアップとして可搬型設備が備えられています。また、これらの設備を制御する緊急時制御室を備えた既存の中央制御室を代替する特定重大事故等対処施設が設置されています。
これに加えて、原子力発電所では、海水冷却ポンプなど屋外にある重要な設備に強固な障壁を設け、その周囲にフェンスや侵入検知器を設置する対策や、重要な区域での常時監視として二人以上で行うとする対策などのほか、作業員の身元を確認する制度が実施されています。
また、福島第一原子力発電所の事故を教訓に、非常用の電源設備や冷却設備を互いに離れた別の場所に分散して配置されています。このこともテロによる安全設備の一斉破壊を防ぐことにつながります。
警察は、銃器や防弾仕様の警備車を備えた部隊によって原子力施設を24時間体制で警戒し、万が一、テロが起こった場合には、高度な制圧能力をもつ特殊部隊を投入できる体制が整えられています。そのほか、海上保安庁でもアメリカでの同時多発テロ以降、全国17カ所すべての原子力発電所を対象に巡視船を配備して警備が実施されています。日頃からの緊密な連携に加えて、テロ発生時に的確に対応できるよう、警察や海上保安庁、自衛隊などの関係機関では共同訓練も行われています。
原子力施設を狙うテロの防止とともに、核物質を使うテロの防止も国際的に重要な課題となっています。2016年4月1日に50カ国以上の首脳級が参加して開かれた「核セキュリティ・サミット」では、核物質がテロリストに渡らないよう国際社会が管理を強化するという共同宣言が採択され、テロリストに関する情報の共有を進めるなどの行動計画が示されました。
また、同年4月8日には、152カ国で結んでいる「核物質防護条約」を改正することが決まり、5月8日に発効しました。この改正によって締約国には、国内の核物質や原子力関連施設をテロリストなどから防護する対策をとることが義務づけられるほか、核物質を許可なく運ぶことが禁止されるようになりました。
■テロを想定した対策
意図的な航空機衝突などのテロを想定し、可搬型設備を分散配置するとともに、運搬して使用できるよう道路および通路が確保できる措置などを講じています。さらに設備のバックアップとして、特定重大事故等対処施設も整備しています。
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緊急時の体制の整備・強化
各原子力発電所では、ハード面の対策に加え、事故が起きた場合でも整備された対策が有効に機能するよう、事業者はマニュアルを整備し、定期的な教育・訓練の実施などを通じ、緊急時に確実な対応を行うためのソフト面の対策も行われています。
【主な訓練内容】
・緊急時通報・連絡訓練
情報共有しながら、国や自治体へ通報・連絡する訓練
・代替給水訓練
水源と建屋壁面の給水接続口までをホースでつなぎ、可搬型の送水ポンプ車と注水ポンプ車を使って原子炉の中に水を送り込むことを想定した訓練
・代替給電訓練
交流電源を失った場合を想定し、常設の代替非常用発電機や非常用ディーゼル発電機、可搬型代替電源車を起動し、受電設備へ接続する訓練
・事故時操作訓練
事故時の状況を運転訓練シミュレータ室に再現し、限られた照明のもと、運転員が急速に進展する事故の事態に的確に対応する訓練
・放射性物質放出の抑制訓練
原子炉格納容器が破損した場合を想定し、原子力発電所の外部への放射性物質の放出を抑制するための訓練
・ガレキ撤去訓練
津波などにより発電所内にガレキが散乱したことを想定し、人や車の通路を確保するために重機でガレキを撤去する訓練
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総合訓練(緊急時対策所での対応)
写真提供 : 中部電力(株)
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運転訓練シミュレータ
写真提供 : 四国電力(株)
ワンポイント情報
◆能登半島地震を踏まえた安全性向上への自主的な取り組み◆
原子力エネルギー協議会(ATENA)および電気事業連合会では、令和6年能登半島地震を踏まえた安全性向上への取り組みについて、地震・津波、発電所設備および現場状況確認・情報発信の各分野において、専門家からなる体制(原子力事業者・メーカー・研究機関)を構築し、検討を行い、取りまとめを行っています。
◆地震・津波に係る検証
- 〇地震・津波分野については、能登半島地震に係る学会、各大学、国の研究機関の調査、研究結果の最新情報を幅広く収集し、従前の地震 動・津波評価への影響を確認した結果、以下の通り、現時点では地震動・津波評価の見直しを要する喫緊の課題は確認されていません。
- 〇なお、活断層の連動のメカニズム等については、今後も各種研究機関の分析・評価等の情報収集を継続し、今後、得られた知見について は、各サイトの地域特性も考慮のうえ、必要に応じ地震動・津波評価への反映を検討していきます。
◆発電所設備の故障・不具合に係る検証
- 〇変圧器をはじめとした志賀原子力発電所における設備の故障、不具合事例について、さらなる安全性向上に資するための対策について検討を行いました。
- 〇今回ATENAを中心に取りまとめた対応方針に従い、ATENAは各社に対して対策の実施および実施計画の策定を要求しました。各社はそれぞれの設備や運用に応じて実施計画を策定し、その計画に基づき取り組みを進めています。
【安全対策の実施例】
志賀原子力発電所2号機の主変圧器は、配管損傷による絶縁油の漏えいによって内部の油面が低下し、絶縁破壊により内部損傷に至った。内部損傷が発生した場合、部品調達、補修に長期間を要し、外部電源の信頼性が低下した状態が長期化してしまうおそれがあることから、絶縁油漏えい時の変圧器停止手順を整備する。
◆現場状況確認や情報発信の検証
- 〇現場の状況把握から情報発信までの一連の流れを整理・分析することで、課題・良好事例を抽出し、適切な状況確認や情報発信のための対応方針を取りまとめました。
- 〇その結果を踏まえ、電気事業連合会では、情報収集等に関する標準的なガイドを作成し、各社へ水平展開しています。
- 〇また、情報発信について、各社はステークホルダーの要求を踏まえた情報発信を徹底・継続するとともに、電気事業連合会は第三者の立場から客観的な発信を行うなど、誤った情報拡散の抑制などに資する運用を検討しています。
原子力事業者としましては、引き続き、耐震安全性評価等に反映すべき最新情報等が確認された場合には、得られた知見を原子力事業者で共有し、安全対策の検討に活用していくことで、さらなる安全性向上に努めてまいります。
また、新規制基準への的確な対応はもとより、ATENAのみならず、JANSIや電力中央研究所・原子力リスク研究センターなど、関係機関とも連携し、産業界一丸となって、より高い次元の安全性確保に向けた取り組みを進めてまいります。
詳細は
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